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WBC、米国内での寂しい現実 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2009/03/19 19:57

WBC、米国内での寂しい現実<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

 メキシコシティを経て、現在マイアミでWBCを取材している。Number編集部の好意により、現地から取材レポートをさせて頂くことになった。今大会が始まる前からある意味異常とも思える過熱ぶりをしている日本とは裏腹に、ずっと日本代表チームがいない“裏ラウンド”を取材してきている自分なりに、第2回大会を客観的に考察できればと思っている。

 第1回は1次ラウンドを、日本、プエルトリコ、それ以外は全て米国内(フェニックスとオーランド)で行っていたものを、今大会では日本、プエルトリコに、カナダとメキシコを加え、すべて米国外で行うようになった。国際大会としての体裁を整えたい主催者側の演出が見え隠れするが、すでに観客動員数の増加が報じられているように、興行的には成功を収めているようだ。

 今回で2回目となった東京ドームでは日本戦はすべて大入り満員だったし、プエルトリコでもプエルトリコ戦はすべてファンが球場を埋め尽くしたようだ。一方でトロントは、カナダが2連敗でいいところなく1次ラウンド敗退したこともあり低調だったようだが、最近すっかり人気低迷のブルージェイズの地元で、初日の米国対カナダ戦で4万人以上のファンを集めたのは大健闘といえるだろう。まがりなりにも地元の人たちが多少なりともWBCに興味を持っていた証拠だろう。

 そして自分が現地に赴いたメキシコシティだが、実際あれだけのファンが球場に集まるとは予想もしていなかった。というのも、それほど地元の人々からの関心を集めているとは思わなかったからだ。空港、タクシー、ホテルなどで様々な人たちと話をしたが(といっても片言の英語とスペイン語のやりとり程度)、野球の試合があるらしいことを知っている人が何人かいた程度で、それがどんな大会なのかを理解している人は皆無だった。メキシコ国内で中継を担当する「ESPNデポルテス」(ESPNのスペイン語放送)でさえ、番組のほとんどが国内外のサッカー中継とそのニュースでもちきりという状況だった。それでも、メキシコとはあまり縁がなさそうなオーストラリアや南アフリカが入った組でありながら、メキシコが絡まない試合を含め全試合で1万以上の集客(フォロ・ソル球場の収容人員は2万6450人)を記録したのだ。そのうちメキシコ対オーストラリア戦、メキシコ対キューバ戦は2万人以上のファンを集めた。数少ないながらも熱心な野球ファンがメキシコにも存在したという事実もあるが、それと同時にメキシコにいるキューバ人たちが球場に足繁く通ったのが大きかった。実際ファンの盛り上がりも、メキシコ人よりもキューバ人の方が上だったような気がする。

 そんな国外ラウンドの成功、盛況を保ちつつ、いざ2次ラウンドに突入するのかと思いきや、米国に場所を移した途端にそのボルテージは急降下してしまっている。2次ラウンド進出を決めた米国以外のチームの国民たちが騒いでいるのを余所に、肝心の米国国内が至って冷ややかなのだ。以前にWBCにおける日米の温度差を報告したが、それはメジャー球団のみならずファンも同じだったようだ。

 自分が取材するマイアミ・ラウンドでさえ、米国を応援するファンはまばらにしかいない。特に、準決勝進出に生き残りを賭けた米国対オランダ戦などは、惨憺たるものだった。球場には1万1059人しか集まらず、試合とは関係のないベネズエラやプエルトリコのファンの姿が目についたほどだ。球場の雰囲気は弱小チームの消化試合のようだった。米国チームが加わっているマイアミでこの状況なのだから、前回大会決勝戦の再現となったサンディエゴの日本対キューバ戦で、わずか2万人ちょっとしか集まらなかったのも十分に納得できてしまう。

 どうして、これほどまでに米国民から興味を持たれていないのか。3年前の第1回大会ではずっとプエルトリコ・ラウンドに回り、米国での取材はサンディエゴの決勝戦だけだった自分には正確な比較はできないが、伝わってくる雰囲気としては、米国民のしらけぶりは前回以下なのではないだろうか。現場で選手たちに触れ、WBCに対するやる気、傾注ぶりが前回大会とは比較にならないほど高まっているのを実感している分、そのギャップが衝撃的であるし、米国チームの選手たちがある意味不憫ですらならない。

 現在、どうしてこんな現象が起こってしまっているのかを考えながら現場で取材を続けている。そして少しずつではあるが、米国内でのWBCの“寂しい”現実が自分なりに見えてきたような気がしている。とりあえずロサンゼルスでの準決勝、決勝も取材する予定なので、大会終了後に予定している次回レポートで、その私見を披瀝するつもりだ。

デレク・ジーター

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