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AFCアジア/アフリカチャレンジカップ2007 VS.エジプト 

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木ノ原句望

木ノ原句望Kumi Kinohara

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2007/10/19 00:00

AFCアジア/アフリカチャレンジカップ2007 VS.エジプト<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

 横から縦へ、日本の攻撃が変わりつつある。

 10月17日のエジプト戦で日本が見せたパフォーマンスは、4−1の勝利以上に、オシム監督の下でこの1年を通して取り組んだ変化を感じさせるものだった。

 試合開始から、日本はすばやく縦へ展開し、シュートを打つという意識が高かった。大久保嘉人(神戸)、前田(磐田)のツートップと左MFに入った山岸(千葉)ら、これまで出場機会の多くなかった面々が、積極的に試合を作ろうとした。

 もっとも、積極的に打ってきたのはエジプトも同じだった。代表チームの中心選手の多くが所属するアルアハリがアフリカチャンピオンズリーグ決勝に進出した関係で、同クラブ所属7選手とミドルスブラ(イングランド)やハンブルガーSV(ドイツ)で活躍する2選手は不在。代わりに出場機会を得た若手は、日本戦をアピールの機会と捉えていたようだ。だが、攻撃には積極的だが相手へのプレスはそれほど強くない。おかげで、日本は比較的楽にボールをキープして主導権を握ることができた。

 とはいえ、これまでの日本は、そういう相手に対してもなかなか縦への仕掛けがうまくできていなかった。ボールを支配しても展開するパスの軌道は横の反復で、縦の動線は少なかった。

 エジプト戦でそれを変えたのは、大久保、前田というゴールに貪欲なFWの存在だったかもしれない。前線にいる彼らの動きが縦への意識の象徴として、他のチームメイトを引っ張る形になったのではないだろうか。

 前半21分の大久保の先制点は、相手クリアボールを受けると反転して相手マークを外し、すばやく切り込んで20メートルほどの距離から鋭く左足を振りぬいた。それが、2003年5月31日に韓国戦でデビューをした大久保の代表初ゴールだった。

 53分に同じく代表初ゴールとなった前田の1点も、中盤で山岸とのワンツーからすばやくボックスへ切り込んで放たれたもの。前田は、このゴール場面以外にも、何度となく相手ゴールを脅かしていた。

 68分のチーム4点目となった加地の一撃も、G大阪DFの優れた身体能力による詰めと相手DFをかわす技量によるものだが、前へという意識の現われとも言える。

 チームとして縦への仕掛けの意識が強く見られたのは、前半33分のパスワークだろう。

 中盤から6−7本だっただろうか。全てワンタッチで縦へのボールを上げ下げしてペナルティエリアまでボールを運んだ。そこで大久保にボールが渡ったところで、しかし、ヴィッセル神戸FWはシュートを打たず、パスを出してしまって結局この場面はフィニッシュまでいけなかったが、これまでの日本代表では久しく見られなかった場面だった。

 MF中村憲剛は、「今日はみんな前を向こうと言っていたけど、そういう形でできたと思う」とコメントし、GK川口は、「ボールを失わずに速い攻めもできるようになり、よくなっている」と代表チームの進歩を口にした。1年を締めくくる試合でチームとして取り組んできたことを手ごたえとして確認できたのは、ワールドカップ(W杯)予選が始まる来年以降を考えると、好ましいことだ。

 もちろん、課題がないわけではない。

 「決定機を外しすぎた」と前田が言えば、「ミスが多いし、攻めに行くときの1本目のパスの展開がうまく行かない」とMF遠藤(G大阪)は話し、多くの選手が「課題は失点」と異口同音に唱えた。

 さらに、日本代表オシム監督にはW杯予選と南アフリカでの本戦を見据えた、大きな流れの中での狙いもある。

 「代表チームをつくる中心選手を広げたい」

 今回のエジプト戦を前にそう話していた指揮官は、今年最後の国際試合となる2006年アフリカネーションズカップ王者との対戦を、チームの層を広げるための機会にしたいと考えていたようだ。

 「いつも中村俊輔や高原を当てにはできない。どの選手が出ても見劣りがしないようなバックアップメンバーを作らなければいけない」

 そういう指揮官にとって、大久保や前田のパフォーマンスは好材料と映ったに違いない。

 今年13戦目、そして2006年8月から指揮を執って以来20戦目を勝利で終えて、オシム監督は言った。

 「いくらかは進歩している。試合の進め方の中身は濃くなってきているし、サッカーらしいプレーをしようとする試みはあがっている。だが、喜んでばかりもいられない。そういう初歩的な進歩はすぐにダメになることもある。常にもっとよくなるようにしておくべきだ」

 まずまずの進展といったところだろうか。

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