バトン(左)は今季6勝目。ウェーバーとベッテル(右)のレッドブル勢が2位、3位とブラウンGPに迫った。

トルコの風に泣いたベッテル。
~バトン独走を止めるはずの男~

西山平夫 = 文 ⇒この著者の記事一覧

text by Hirao Nishiyama

photograph by Hiroshi Kaneko

トルコの風に泣いたベッテル。~バトン独走を止めるはずの男~

関連アスリート・チーム:

チーム・選手名
ジェンソン・バトン
セバスチャン・ベッテル
ブラウンGP
レッドブル

 路面温度が50度を突破した灼熱のトルコGPも、驚異のポイントリーダー、ジェンソン・バトン(ブラウンGP)が制した。唯一の対抗馬と目されたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)は、ポールポジションを奪いながらオープニングラップでコースオフ。バトンに抜かれ、この時点で優勝はほとんど絶望的になった。このことは関係者の誰もが予想できたことだが、それはなぜか。その後のピットインの周回数が、すでに“予告”されていたからである。

ベッテルの作戦が1周目で終わってしまった裏事情。

 今年から予選終了後にスタート前の全車の車重が公表されることになった。たとえば、ポールポジションを奪ったベッテルは649.5kg。F1マシンの最低車重はドライバー込みで605kgと定められているから、この定数を引けば搭載している燃料量が導き出せる。ベッテル車のガソリン量は44.5kgで、イスタンブールパーク・サーキット1周で使う燃料はおよそ2.7kg。計算するとおよそ15~16周目に給油しないとガス欠に陥ることになる。

 一方、予選2位のバトンは50.5kgの燃料を搭載。ベッテルよりも6kg、周回数に換算すれば2周分多いガソリンを積んでいることになる。レースの常識で言えば、同じようなポジションにいれば遅くピットインしたほうが前に出られるから、バトンとすればベッテルをあえて抜く必要はなく、ピッタリとついていくだけで、給油のピットインで自然にベッテルの前に出られる計算となる。慌てる必要はこれっぽっちもないのだ。

 そうすると、ベッテルの作戦がハッキリ見えてくる。先行逃げ切り、これしかない。スタート直後から飛ばしに飛ばしバトンとの間隔を広げ、その間に稼いだ秒数を給油時間にあてれば、バトンより早目のピットインでも辛うじて前に居残れる可能性がなくはない。あるいは短い給油を3回繰り返し、トップを譲らない作戦も“あり”だ。ただし、1コーナーにホールショットを決め、ポールポジションを終始譲らないことが絶対条件となる。

次戦、バトンが母国GPで記録を伸ばしてしまうのか?

 はたしてベッテルはスタートをうまく決めた。しかし、コースを半周ほどしたところで思わぬ伏兵が立ちはだかっていた。トリッキーな風である。坂を駆け上った後にあるタイトなターン9、続くターン10でベッテルは昨日までとは向きが違う風速数mの突風を喰らう。前日は向かい風、それが追い風に変わっていたのだ。空力のコントロールを失ったベッテルはコースオフし、そこをバトンに衝かれて一瞬のうちに攻守逆転。この瞬間にベッテルの目論見は水泡と帰した。

 2位に落ちたベッテルは15周目にピットイン。6.5秒の短い給油でコースに復帰する。その2周後、バトンがピットイン。こちらは9.3秒とベッテルより3秒近く長い。それでもコースに戻ったとき、首位はバトンでベッテルを4秒近くリード。軽いタンクのベッテルは一気にバトンとの差を詰め、26周目に0.2秒差まで迫るが、そこまで。29周目、ベッテルは2回目の給油に入り、その間に2回ストップのチームメイト、マーク・ウェーバーにも抜かれ、3位に落ちた。

 そつなく勝ったバトンは、これで開幕7戦6勝。これは’65年のジム・クラーク(ロータス)、’04年のミハエル・シューマッハー(フェラーリ)と並ぶレコードだ。次戦、バトンの“ホーム”イギリスGPで、記録がまたひとつ伸びる可能性大である。

■関連コラム► モナコの“魔物”をも封じ込めたブラウンGP。
► 敵の自滅に助けられたJ・バトンの4勝目。~伏兵ベッテルの無念~

筆者プロフィール

西山平夫

1952年生まれ、新潟県出身。レース雑誌「AUTO SPORT」編集部を経て1984年にフリーランスに。現在F1全戦取材を主軸に「Racing On」「F1速報」「NAVI」等に寄稿。ひいきのドライバーはF・アロンソ。


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