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史上初の女性優勝に沸いたインディジャパン。 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph bySo Kuramochi(BOSHA)

posted2008/04/24 00:00

史上初の女性優勝に沸いたインディジャパン。<Number Web> photograph by So Kuramochi(BOSHA)

 4月20日。栃木県の「ツインリンクもてぎ」で、インディカーシリーズの歴史が書き換えられた。

 今季IRLシリーズ第3戦「インディジャパン300」で、女性レーサーのダニカ・パトリック(アンドレッティ・グリーン・レーシング)がIRL参戦50戦目にして初優勝を飾り、97年を誇るインディカーレースの歴史上初の女性優勝レーサーとなったのだ。

 本来、同レースの決勝は前日に行われるはずだったのだが、金曜日が予選キャンセルとなるほどの降雨となり、土曜日には雨は上がっていたもののコースの2カ所からにじみ出る湧き水が止まらずレースは中止。翌日に順延となった(オーバルコースでのレースは、ウェット・コンディションとなった場合、いっさい走らない規則になっている)。

 そのコースの湧き水は、関係者が徹夜でコースに穴を開けて吐き出させる方法で食い止め、午前11時のスタート2時間半前に無事復旧。11時10分に200周の戦いの火ぶたは切られた。

 レースの大半はポールシッターのH・カストロネベス、チームメイトのR・ブリスコー、S・ディクソン、D・ウェルドン、そして昨年のウィナー、T・カナーンら5人がトップグループを形成し、終始レースをリード。ダニカはその後方のグループにいて待機し、5〜7位あたりを走行する。

 勝負を分けたのは燃料作戦。燃料補給は、コース上の事故処理などで追い越し禁止のイエローコーション(黄旗提示)となりペースカー(先導車)が入った時が好都合。インディカーは燃料満タンでもてぎをおよそ45周できるが、その最後のイエローコーションが終ったのは200周レースの150周目。この時、前出のトップランナーたちは143周目に燃料補給。つまりチェッカーまでにもう1回給油が必要だったが、彼らは再度イエローコーションが出ることに賭けた。

 一方、ダニカも143周目に給油したが、チームの指示でイエローコーション中の148周目に再度給油。この後、空気と燃料の混合比をリーン(薄目)に設定。燃料消費を抑える省エネ走法──言い換えればイソップ童話のカメ戦法──で前崩れを待った。

 そのカメ戦法が見事図に当たったのが終盤。150周の再スタート後にイエローコーションのチャンスはなく、残り5周時点で1〜3位を走っていたディクソン、ウェルドン、カナーンがいっせいにピットイン。それらトップグループからわざと離れてスロー走行していたカストロネベスが一気にトップに立つが、省エネ走法に転じたのが178周目と遅く、残り2周であっさりとダニカに抜き去られてしまう。

 「最後のスティントは何が起こるのか分からなかったワ」と、感涙にむせぶダニカ。彼女の所属するチーム・アンドレッティ・グリーンの柔軟な燃費戦略と指揮ぶりが歴史を動かしたといって過言ではない。

 これまでさんざん「いつ優勝するつもりだい?」と訊かれていたダニカは、TVインタビューアーに「次の優勝はいつ?」と問われて「来週よ!」と叫んでもてぎを後にした。

 全16戦で組まれたIRLの次戦は4月27日のカンザス・スピードウェイ。インディのトップレディ、ダニカ・パトリックの戦いが楽しみである。

ダニカ・パトリック

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