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脱力のサンフランシスコ 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettysports/AFLO

posted2007/09/11 00:00

脱力のサンフランシスコ<Number Web> photograph by Gettysports/AFLO

 いよいよシーズンも残すところ1か月を切ったが、両リーグ、各地区、さらにワイルドカードを含め、これほど熾烈な争いを繰り広げているシーズンは近年稀ではないだろうか。特に、自分の取材経験の中でも、日本人選手が所属するほとんどのチームがプレーオフ争いに加わっているというケースはあまり記憶にない。

 そんな中、松井稼頭央選手の取材でロッキーズのサンフランシスコ遠征に行ってきた。3連戦を戦いロッキーズが1勝2敗と痛い負け越しを喫したのはさておき、この3連戦でジャイアンツの本拠地「AT&Tパーク」が1試合も満員にならなかったのには驚いた。もちろん記者席もほぼ半分が空席の状態。下手な勘ぐりで恐縮だが、すでにジャイアンツがプレーオフ争いから蚊帳の外に置かれているというのもあるのだろうが、それ以上に“大イベント”を終えた後の虚無感というか脱力感めいたものを球場全体から感じ取ってしまったのだ。

 もちろん大イベントというのは、8月7日に達成したバリー・ボンズ選手の通算本塁打記録の更新だ。残念ながら自分自身は現場にいなかったが、6月下旬から通算754号まではずっとジャイアンツに付き従って取材を続けていたので、球場の雰囲気は肌で感じていた。ボンズ選手が記録更新を目指していた間の球場に集まるファンの興奮がこちらにも伝わってきたし、記者席もボンズ選手の打席の度に異様な緊張感に包まれたものだった。それが今回はファンが少ないのもあるだろうが、ジャイアンツが勝った試合でも盛り上がりは今ひとつだったように思える。

 単なる脱力感ならいざ知らず、その歴史的快挙の余韻に浸っているような素振りも見られない。そこでロッキーズの打撃練習前に1日だけ球場探索を試みた。チーム・ショップでは記録更新記念ブックが堆く積まれていたが、私がショップにいる間、その本を手に取るファンは1人も現れず、半額以下になったオールスター・グッズに人だかりができていた。さらにボンズ選手が記録達成の記者会見で着用していた記念Tシャツと帽子に関してはショップに陳列もされておらず、球場の1階通路にある出店で発見しただけだった。もちろん在庫不足の可能性はあるが、3連戦中にそのTシャツや帽子を身にまとったファンを発見できなかったほどだから、ファンにとって決して人気商品というわけではなさそうだった。逆に球場外壁に掛かった記録更新の垂れ幕が空しく感じられた。

 「彼が記録更新してくれて嬉しかった。来年もジャイアンツに戻ってきてほしいが、多分それは無いだろう」

 ジャイアンツの公式サイトの記事で、8月24日に行われた記録更新の祝賀街頭パレードを見学にやって来たファンの言葉をこのように紹介していたが、まさにこれが多数のジャイアンツ・ファンの気持ちを代弁しているようでならない。つまり今回の記録更新を機に、ファンの心の中では“ジャイアンツのボンズ選手”は思い出として完結してしまったようなのだ。

 今年6月にボンズ選手の話題を取り上げた際、通算3000本安打を目指し、来季以降の現役続行を希望していることは触れた。さらに記録更新後も、ボンズ選手は近しい記者に対して新たな目標として「800本塁打、3000本安打、2000打点」を掲げ、改めて現役続行を表明している。しかしファンが感じているように、ジャイアンツ残留という点でかなり暗雲が立ちこめている状態なのだ。

 というのも球団社長兼筆頭オーナーであるピーター・マゴワン氏は、シーズン後半戦開始直後にブライアン・セビアンGMとの契約延長を発表するとともに、来季以降は大々的な若手へ切り替える方針を打ち出したのだ。さらに記録更新のために集まった報道陣のインタビューには以下のように語った。

 「バリーが来年もやりたいというのは昨オフの契約交渉の時に聞いていた。彼と契約したのは記録のためではない。彼がいることでチームが勝てると考えたからだ。今年のチーム成績をみれば分かるように、我々の方針は間違っていた。間違っていたのだから修正していかねばならない」

 さらに追い打ちをかけるように、今シーズンのボンズ選手の成績は安定さを欠いている。記録更新のプレッシャーという見方もあったが、更新後も好調時の打撃を維持できず、9月に入り再び下降気味。

 ジャイアンツの今シーズン本拠地最終戦は9月26日のパドレス戦。果たして地元ファンはボンズ選手に対してどのように対応するのだろうか。

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