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ジーターと大きな猫。
~好調ヤンキースを牽引する30代~ 

text by

芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byGetty Images

posted2009/09/08 11:30

ジーターと大きな猫。~好調ヤンキースを牽引する30代~<Number Web> photograph by Getty Images

これまで200本安打以上は6度記録しているが、不思議と打撃タイトル(打率、本塁打、打点)には縁がない

 ヤンキースが負けない。シーズンも終盤にさしかかったというのに、依然として大リーグ30球団中最高勝率を維持している。

 なにしろ、30代後半の中心選手たちがこぞって好調だ。ジーター、デイモン、松井が35歳、ペティットが37歳、ポサダが38歳、抑えのリベラが39歳。これまた34歳のAロッドひとりを除いて、彼らは全員、昨季よりもよい数字を残している。宿敵レッドソックスの主軸(オルティース=33歳、ローウェル=35歳、ヴァリテック=37歳)がパッとしないまま終盤戦を迎えようとしているのとはまったく対照的だ。

捕球技術に長けた一塁手が与える内野陣への安心感。

 もうひとつの好調要因は、マーク・テシェイラの加入だろう。9月2日現在、本塁打32本という数字はまず期待どおりだが、彼の場合は守備面での貢献が非常に大きい。

 テシェイラはビッグ・キャットだ。1940年代でいうならジョニー・マイズ、80年代から90年代の例でいうならアンドレス・ガララーガといったタイプの一塁手か。大柄だが身体が柔らかく、守備範囲が広いだけでなく、こまかいプレーも器用にこなしてみせる。

 ことに彼は捕球技術に長けている。他の内野手からの送球が少々悪くても、安心して見ていられる。前任者のジオンビがほぼ置物状態の一塁手だっただけに、これは大きい。カノー(二塁手)もジーター(遊撃手)もAロッド(三塁手)も、守備の面では、昨季に比べて明らかにリラックスしている。

ジーターは伝説的怪物「がに股の超人」の再来か。

 ジーターの場合は、バットにも好影響が及んだ。今季の彼は、生涯最高に近い数字を残している。9月2日現在、打率=3割3分2厘、出塁率=3割9分9厘、本塁打=17本、安打=178本、盗塁=23個。

 この調子で行くなら、シーズン終了時には、安打=215本、本塁打=22本、盗塁=28個といった数字も可能なのではないか。守備の負担が大きく、怪我も多いポジションだけに、これは驚異的な成績といってよい。

 革命的な大型遊撃手と呼ばれた鉄人カル・リプケンはもとより、屈指の攻撃的遊撃手と評価の高かったロビン・ヨーント(現役生活の後半は中堅手だった)やバリー・ラーキンも、35歳の年にはここまでの数字は残せなかった。そもそも、35歳以上の遊撃手で打率3割3分を超えたのは、「がに股の超人」と恐れられた100年前の伝説的怪物ホーナス・ワグナーただひとりなのだ(1909年と11年に3割3分台を記録している)。

ピート・ローズの偉業を越える日も近い。

 実をいうと、ジーターはもうひとつ、歴史的な里程標に接近している。

 通算安打数の生産ペースが、あのピート・ローズを追い抜こうとしているのだ。

 ローズは、36歳の誕生日を迎えるまでに2762安打を放った。ジーターの通算安打数は現在2713本。彼が36歳の誕生日を迎えるのは2010年6月26日だから、いまのペースで進めば、36歳時のローズを追い抜くのはまず確実といえそうだ。これも興味深い。ジーターよりも実質5年遅れで大リーガーとしてのスタートを切ったイチロー(1歳年長。大リーグ通算安打数は現在1989本)は、はたしてこの数字を意識しているだろうか。

マーク・テシェラ
デレク・ジーター
ピート・ローズ
ニューヨーク・ヤンキース

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