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裏金問題でプロ球界がすべきこと。 

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海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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posted2007/03/27 00:00

 もう25年も前のことになるが、当時ライオンズの管理部長だった根本隆夫にスカウト活動の難しさを聞いたことがあった。当時も新人獲得に際しての噂はさまざまあったが、彼はドラフト制以前の話としてつぎのようなことを話してくれた。

 「いまなら負けないけど、かつてぼくは近鉄と広島という名うての弱小球団にいたからね。はやくから目をつけて、その子供のまわりともいろいろ関係をつくっておいても、ジャイアンツが割り込んできたらもう駄目なんですよ。

 だいたいパターンが決まっててね。近鉄が目をつけるとタイガースがやってきて、そしてジャイアンツが割り込んでくる。どういうわけかタイガースが動くと必ずジャイアンツが仕掛けてくるんだよ。そして子供はジャイアンツに行っちゃう。どうしようもなかったね」

 根本の対抗手段は、タイガースが動いてもジャイアンツが割り込んできても崩されないほどの強い人間関係を新人選手とのあいだに築くこと以外になかった。根本はそのために、有望新人には中学生、高校生のころから直接野球を教えたものだといっていた。また、金銭を与えて囲い込んだとは根本はいわなかったが、当然そうしたこともおこなわれていたのだろう。

 ドラフト制になってからは、そうしたことは表向きなくなったとされてきた。どんな裏工作をしても、ドラフトで他球団に指名されてしまえば何にもならなくなるからである。裏工作自体をする必要もなくなった。何もしなくても、指名さえすればどんな新人でも獲得できるのに、誰が不要な労力と経費を払うだろう。

 しかし、ジャイアンツだけは、そのドラフト制に最初から一貫して反対の態度を取りつづけてきた。何もしなくてもすべての球団が平等に新人を獲得できるというのは、先の根本の話ではないが、本来ならジャイアンツが獲得できるはずの新人を他球団にとられてしまうということだからだ。つまり、ジャイアンツにとっては独占的な既得権をおかされることだった。

 ドラフト制が施行されてもう40年以上になるが、その歴史はほとんどジャイアンツがかつての既得権を回復するために、いかにドラフト制を骨抜きにするかという歴史だった。1993年に導入された新人側からの「逆指名制」は、その集大成といってよい。このとき、ドラフト制は完全に骨抜きにされたのである。

 それとともにジャイアンツの底なしの凋落がはじまったのは皮肉なことだが、それ以来再び新人に対する金銭供与疑惑があちこちで噂されるようになった。近頃は“誠意”という言葉が使われるようになったが、逆指名はタダではしてもらえない。すべての球団のスカウト活動が昔に戻ったのである。契約金のほかに家一軒を要求されたというような話はぼくも聞いたことがあるくらいだ。

 3年前の一場事件につづいて、今回はライオンズが2人のアマチュア選手に裏金を渡していたことが発覚したが、これがライオンズ1球団だけの問題ではないことは疑いがない。ジャイアンツの圧力に屈し、12球団みんなでこういうことが起きる状況をつくってしまったのである。事件の責任は、ジャイアンツをはじめとする12球団全部にある。役にも立たない小手先の制度いじりや、「倫理宣言」の申し合わせなどにはもううんざりした。彼らはこんどこそ胸に手を当てて、その責任の果たし方を真剣に考えなければならない。

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