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ミルコの“改心” 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph bySusumu Nagao

posted2008/06/16 00:00

ミルコの“改心”<Number Web> photograph by Susumu Nagao

 梅雨の昨今、巷では“CHANGE”という言葉が時代のキーワードになりつつあるそうだ。アメリカ民主党のオバマ氏が“CHANGE”という言葉を連呼することで支持を集め大統領候補に選出されたわけだが、黒人初の大統領誕生の可能性に、この秋は日本も巻き込んで盛り上がりそうな予感がする。あっ、そういえば天下の月9ドラマも同じ名前だったなぁ。

 そんなことは置いておいて、格闘技界にも積極的に“CHANGE”をしようとしている人間がいる。

 それがミルコ・クロコップである。

 3月15日に開催したDREAM.4で、ハレック・グレイシーとの試合が予定されていたが、ミルコの負傷(右肘亜脱臼)により試合は急遽キャンセルされてしまった。残念の至りだが、この負傷欠場についてとやかく言うつもりはない。

 重要なのは、この試合がミルコが強く望んだことで成立したグラップリング・チャレンジマッチだったことだ。

 グラップリング・マッチとは、つまり打撃なしの寝技だけの試合である。目の肥えたファンにとってみれば、グラップリング・マッチは選手間の駆け引きや伏線など見所の多い面白い試合なのだが、総合格闘技の王道を歩み、お茶の間を相手にしているDREAMの舞台でやるには、地味かつエンターテイメント性に欠けるといってもいい。大きな会場でやるには、かろうじて人気者のミルコだったからこそ成立したといっても過言ではない試合だった。さらに言えば、相手は寝技に一日の長があるグレイシーの人間である。打撃系のファイターであるミルコにとってみれば、非常にリスクの大きい試合だったといえるだろう。

 なぜ、ミルコはこのような試合を試みようとしたのか?

 決して、ミルコは寝技ができないわけではなかった。ただ、それはあくまでも相手の動きを封じる防御に撤した寝技だった。PRIDE時代を思い出してほしい。トップポジションを奪われたからといって、そう簡単にミルコは崩れず、ガードポジションで対抗した。確かにこれまでのMMAの土壌ならば、そういったディフェンシヴに撤した寝技でもよかろう。

 だが、グラップリング・マッチを挑むということは、自ら極めに行く攻撃的な寝技をすることと同義である。つまりミルコは、これまでとはやり方を変え、ちがう領域へと進もうとしている。

 打撃だけではない、攻撃的な寝技もできるコンプリートファイターへの“CHANGE”。

 アスリートがこれまでとはちがうやり方を選択するのは、更なる成長を求めるだけではなく、そこに挫折や限界を見たときである。

 昨年、ミルコは最強を極めんとばかりPRIDEを飛び出し、世界最高峰の舞台であるUFCへ挑戦した。

 しかし、現状は甘くはなく1勝2敗という残念な結果に終わっている……。

 ミルコはUFC挑戦について次のように独白している。

 「はっきり言ってナメていたんだ。オレより強い奴なんてUFCには絶対にいないと思っていた……」

 ゆえの“CHANGE”だったというわけだ。通用しなかったのだから、変わらざるを得ない。アイディアと進化なく現状維持を求める者は、時代に取り残されるばかり。それは格闘技の世界ばかりでなく、どんな世界もなんら変わらない。

 打撃だけで勝てる時代はもはや終わった。もちろん寝技だけでも勝てない。総合格闘技の技術と戦術は、当の選手たちを置き去りにするほど早く日々進化している。

 ミルコの“CHANGE”は、そんな総合格闘技界の流れを象徴する、選択だったといえるだろう。

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