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ロッキーズ“デンバーの奇跡”の舞台裏 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2007/10/09 00:00

ロッキーズ“デンバーの奇跡”の舞台裏<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 メジャー球団が30チームもある中で、連続してロッキーズ関連の話題になることをご容赦願いたい。

 いや~、とにかく「凄かった」の一言だった。10月1日のロッキーズ対パドレスのワイルドカード決定戦は、久々に鳥肌が立つほど興奮させられた試合だった。延長13回に2点を奪われながら、その裏に3点を返しての逆転サヨナラ勝ち。いかな優秀な脚本家でもこれほどの展開を書き上げるのは難しいと思えるほど、ドラマ以上に劇的な幕切れだった。勝手ながら“デンバーの奇跡”という表現を使わせてもらいたい。

 この奇跡を演じた主役の1人が松井稼頭央選手だ。リーグ最多勝のピービー投手から第1打席に先制二塁打を放ち、6回には勝ち越し犠牲フライを打つなど、防御率3点以下のエース投手から6点を奪う立役者となった。そして13回、先頭打者としてホフマン投手から右中間二塁打を放ち、球場の沈滞ムードを一変させるとともに、大逆転劇の口火を切ることとなった──と、すでに日本で報じられているとおりの大活躍だった。

 だが、この試合を現場で取材した1人として、これらの報道に対し何かいいようもない消化不良感を抱いていた。確かに、自分自身も仕事を請け負っている通信社に松井選手中心のストーリーをまとめて送っているように、日本でこの試合を報じる場合、どうしても松井選手を通したかたちにならざるを得ないだろう。その一方で、それではあの試合の醍醐味すべてを網羅することが不可能だろうという思いが強かった。そんなわけで、今回はどうしても奇跡の“舞台裏”を皆さんにご報告したかった次第だ。

 実はこの試合、結末を迎える延長13回に入る前、2つの重要な出来事が起こっていた。まず1つが、6対5とロッキーズがリードして迎えた6回裏だった。一死から5番アトキンス選手が左翼フェンス直撃の二塁打を放ったのだが、ボールが直撃した場所がフェンス最上部の黄色ラインの部分だったのだ。もちろんルール上は本塁打。だが、この試合プレーオフと同じ2人の線審を加えた6人の審判で仕切っていながら、肝心の落下地点を見落としていたのだ。ハードル監督の抗議も空しく、審判団の協議の結果は二塁打のまま。この後タイムリーヒットは出ず、貴重な追加点は幻となってしまったのだ。

 そして8回表に、もう1つの出来事が起こった。二死二塁からジャイルズ選手が左翼越え二塁打を放ち同点にされてしまうのだが、ここでホリデー選手が記録上に残らないミスを犯していた。打った瞬間打球の目測を誤り、一度前進しかけてから慌てて後退したため、打球に追いつくことができず頭上を超されてしまった。定位置にいれば確実に捕球できていたはずだった。

 前回紹介したように、ホリデー選手は非常に真面目な選手だけに、この小さなミスは自然と彼を追い込んでしまった。その後の2打席はいずれも空振り三振。記者席から見ていても明らかに気負い込んでいた。そんな嫌なムードのまま延長戦に突入し、延長13回にヘアーストン選手の2ラン本塁打を許してしまったのだから、満員の4万8404人のファンが、打球が左翼席に飛び込んだ瞬間、声援を忘れて凍り付いてしまったのも無理からぬことだ。そんな状況の中で、13回裏を迎えていたというわけだ。

 だからこそ、松井選手の先頭二塁打もさることながら、最後の打席となった同点三塁打を放ち、アゴを強打しながらも決死のスライディングで逆転のホームを踏んだホリデー選手の鬼気迫るプレーに、ファンの感動は頂点に達してしまった。グラウンドで勝利を称え合う選手たちの姿を見守り続け、いつまでも球場を離れようとしなかった。

 シャンパン・ファイトが始まったクラブハウスでもドラマは続いていた。やや遅れて入ってきたホリデー選手に対し、4~5人の選手が一斉にシャンパンをかける。流血するほどの傷を負ったアゴには殊の外浸みただろうが、緊張感から解放されたホリデー選手は、ロッキーズ一筋のベテラン、ヘルトン選手に抱きついて涙を流すほど感極まっていた。その一方で、ロッキーズの一体感を示すように、あと一歩で地獄を味わっていただろう13回に本塁打を許してしまったフリオ投手に対し、他の選手が入れ替わりでシャンパンを浴びせかける気遣いをみせていた(ただ、その後元気を取り戻したフリオ投手が羽目を外したのか、シャンパンかビールを開ける際に左手親指を切ってしまい、こちらも流血していたという笑い話も追記しておく)。

 多少なりとも現場の感動を味わって頂けただろうか。スポーツを通じて、こんな様々な人間模様を間近で目撃できるのだから、これからも一生取材現場から離れることができないような気がする…。

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