MLB Column from USABACK NUMBER

ヤンキースvsレッドソックス それぞれの「エクソシズム(悪魔払い)」 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2008/04/18 00:00

ヤンキースvsレッドソックス それぞれの「エクソシズム(悪魔払い)」<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

 70年代に大ヒットしたホラー映画『エクソシスト』のおかげで、「エクソシズム(悪魔払い)」という言葉は日本でもよく知られるようになった。エクソシズムに限らず、アメリカ人は、意外と迷信深いところがあるのだが、特に野球ファンは、「呪い」とか「縁起担ぎ」とかにはまりやすい傾向が強いことで知られている。たとえば、レッドソックスが1918年から2004年まで86年間ワールドシリーズに優勝できなかった間、「優勝できないのはベーブルースが呪いをかけたせい」とする説がまことしやかに唱えられたのは、その好例である(「ベーブルースの呪い」については拙著『レッドソックス・ネーションへようこそ』(ぴあ社刊)に詳述したので、興味がある方は一読されたい)。

 今回は、開幕早々、ヤンキースとレッドソックスの2チームが、相次いでエクソシズムに勤しんだので、両チームがなぜ悪魔払いを執り行わなければならなかったのか、その背景を説明しよう。

 まず、ヤンキースだが、発端は、ニューヨークポスト紙の「特ダネ」記事(4月12日付)だった。現在建設中の新ヤンキー・スタディアムで働いていたレッドソックス・ファンの建設工が、昨年夏、デイビッド・オーティースの名前と背番号が付いたユニフォームを床下に埋め、「今後30年優勝できないよう」呪いをかけたというのである。

 建設工によると、30年と時限をつけた理由は「自分が生きている間は優勝を見たくないから」、オーティースのユニフォームにした理由は、「ヤンキースは 2003年にオーティースと契約するチャンスがあったのに契約しなかっただけでなく、その後、レッドソックスに入ったオーティースに痛い目に遭わされ続けているから」だった。

 この特ダネ記事に対し、ヤンキース経営陣は「エイプリル・フールは10日以上前だったのだぞ」と、初めのうちは、真剣に取り合おうとしなかった。しかし、選手やファンがマジに怒っていると知った後、急遽、コンクリートを掘り起こしてオーティースのユニフォームを取り去ることに方針を変更した。しかも、ただ方針を変えただけでなく、報道陣を多数呼び入れて大々的な「エクソシズム」の行事としたため、切削機が大音響を上げてコンクリートを掘り起こすシーンや、切削機のせいで穴だらけになったオーティースのユニフォームが取り出される瞬間が、全米に放映されることになったのだった。

 かくして、ヤンキースは、「呪い」がかかるのを未然に防ぐことに成功したのだが、「呪い」をかけるという大罪を犯したくだんの建設工を黙って見逃すわけにはいかなかった。地方検事局に対し、「刑事訴追すべし」と圧力をかけたのだが、検事局は「何も法律は犯していないから訴追できない」とヤンキースに伝えたのだった(確かに、「呪いをかけてはいけない」と法律で禁止されているわけではないので、刑事訴追するのには無理があったのだが、ヤンキースは「掘り起こしにかかった費用5万ドルを払え」と民事訴訟を起こすことを検討している)。

 と、ヤンキースが実施したエクソシズムは、球団関係者が顔に青筋を立てるような大まじめなものだったのだが、翌4月14日にレッドソックスが執り行ったエクソシズムは、加わった面々がみなにこにこ笑うという、非常に明るいものだった。対インディアンス戦試合開始直前のダグアウトで、それまで43打数3安打(打率0割7分0厘)と大スランプに陥っていたオーティースに対し、体に取り憑いた「スランプの悪魔」を追い払う儀式を挙行したのである。ひざまずいたオーティースをチームメートが取り囲んで手をかざす中、マイク・ロゥエルが悪魔払いの呪文を唱えたのだが、はたして、オーティースは、第1打席で7試合ぶりのヒットを放ち、エクソシズムはすぐさま効果を上げたのだった。

 ちなみに、いま、レッドソックス・ファンの間では「新ヤンキー・スタディアムの床下にオーティースのユニフォームを埋めたことで呪いがかかったのは、ヤンキースではなく、オーティースだった。それが証拠に、オーティースは、昨年夏以降ずっと膝の故障に苦しんだ上、今季は大スランプに陥った。しかも、ヤンキースが、ユニフォームをコンクリートの重しから解放した途端にスランプから脱したではないか」とする説が流布している。私が、「アメリカの野球ファンは迷信好き」と言った理由がおわかりいただけたろうか?

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