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福留孝介「スタイルは変えない」 

text by

生島淳

生島淳Jun Ikushima

PROFILE

photograph byNaoya Sanuki

posted2008/04/17 17:18

 スターが誕生した瞬間だった。

 シカゴ・カブスの開幕戦、福留孝介はド派手なデビューを飾った。9回裏の同点3ラン。大声援を受けながらベースを一周し、ダグアウトに戻ると、100年ぶりのワールドシリーズ制覇を待望するカブス・ファンは、スタンディング・オベーションでルーキーを祝福した。

 おそらく、照れながら福留はその声援に応えた。

 まさに幸福な出会いである。チームは彼の力を必要とし、選手はその期待に最高の形で応えたのだ。

 それでも福留は淡々とした態度を崩さない。気負った様子を表に出すことなく、ベテランのようにふるまっている。

 「契約の時から、日本とアメリカの球団の中で、カブスが自分をいちばん必要としてくれていることが伝わってきました。キャンプに入ってから、チームに溶け込む努力はするつもりでしたけど、エースのザンブラーノなんかと話してると、自分が必要とされているのが分かるんですよ」

 カブスは昨季、地区優勝したものの穴の多いチームだった。守備に難があるだけでなく、今季の開幕オーダーを見ても、左打者で長打が期待できるのは福留だけなのだ。三拍子揃った福留の加入の意義は計り知れない。

 アメリカで福留は『イチローと松井秀喜を足して2で割ったような選手』と評されることもある。分かるようで分からない、ナンセンスな比較である。チームメイトにさえもこうした質問がマスコミから飛ぶことがある。

 「デレク・リーが『福留は福留なんだ』と話してたんですよ。あれはうれしかったなあ」

 ただし、「これが福留だ」と言えるようなプレーが咄嗟に思い浮かばないのも事実である。イチローは足と肩、松井はパワーで魅了する。では、福留孝介という選手の「看板」はどこにあるのか。それを理解するために、彼のプレーのどこを見ればいいのか、その疑問を本人にぶつけてみた。少し、間があった。

 「福留という選手は、1球ごとに何かをするんだ、考えてるんだってことを知って欲しいですね。走る、打つ、守る。どんな場面にしても1球ごとに状況が違うから、それに合わせて求められるプレーが違う。そこで起こり得るすべてのことを想定して、プレーしてますから」

 福留はこれまでの野球人生の中で、想定外の場面に出会ったことはない、と言い切った。

 この答えにこそ、福留の魅力が凝縮されている。野球という偶発的な要素が多い競技で、起こり得ることを完全に把握しているという自信は、選手としての完成度の高さを示している。PL学園、日本生命、そして中日と王道を歩み、「野球IQ」の高さはお墨付きと言っていい。

 逆にその落ちつきが、意外性の欠如に見える場合もある。福留は守備においてファインプレーは必要ない。それよりも普通に見えるプレーの方が価値が高いと話す。

 「外野手がダイビングしたり、冒険した結果のファインプレーは、プレーの質として高いとは思いません。僕が思うファインプレーは、打者、投手の上質な情報を選んで、たとえばライン際に極端な守備位置を取る。普通は守らないんだけど、情報を総合するとそうなった。もし、そこにボールが飛んできたら、それが本当のファインプレーだと思う。でも、みんなには普通のプレーにしか見えない」

 情報戦は福留の得意とするところだ。メジャー1年目の大きな課題は、相手の情報が頭の中にストックされていないことだろう。裏を返せば、相手も福留の情報が乏しいわけで、そうなると情報処理の速さが勝負になる。その能力の高さはオープン戦のロイヤルズとの試合から早くも垣間見えた。

(以下、Number701号へ)

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