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ボランチ=ベッカムの限界。技術と戦略の穴。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/05/13 00:00

ボランチ=ベッカムの限界。技術と戦略の穴。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 「考えるスピードが遅い。中盤では、ボールを受ける前にどこへ出すかを考えておくことが大変重要だ」――マジョルカの監督で、そのキャリアの長さ(1部リーグで755試合を指揮)により“賢人”と呼ばれる、ルイス・アラゴネスは、5月8日の試合前、こうベッカムを評していた。 

 そしてその言葉どおり、マジョルカ戦のベッカムはまたもや期待を裏切った。

 チーム同様、心身の疲労が蓄積したベッカムの足は止まっている。彼の美点の一つである運動量が落ちるとともに、ボランチとしての限界が見えてきた。バレンシアに優勝をさらわれ、チーム状態が最悪の時期に気の毒だが、ボランチとしてのベッカムを改めて検証してみた。

 ボランチとしてのベッカムには、以下の欠点がある。

【1】リズムの単調さ=考えるスピードの遅さ

 今のベッカムは「1→2→3(いーち、にー、さーん)」のリズムでプレーしている。1:ボールを受け、2:顔を上げ、3:パスを出す。ボールを受けてからパスを出すまで、それぞれのアクションに1秒ずつ、計3秒はかかっている。これは、ゆっくりしたボール回しには有効だ。が、問題は、リードされていても、速攻のチャンスでも、リズムを変えられないことだ。「1、2、3」を同時に行うワンタッチパスや、「1→2、3」の速いパスを出せない。

 これには、ベッカム自身の思考スピードの遅さだけでなく、周りの動き出しの遅さにもむろん責任がある。モラルが下がり、疲れが溜まると、思考のスピードが落ち、その結果、動き出しも遅くなる。ベッカムの遅さは、レアル・マドリー全体に蔓延する心身の疲労を象徴している。

【2】パスの単調さ=左足、アウトサイドキックの不在

 「3(さーん)」で蹴り出されるボールは、必ずミドル、あるいはロングパスである。ミドルの場合は右サイドライン際に開いたフィーゴへ、ロングパスの場合は、縦にラウールまたはロナウドへ、と行き先もほぼ決まっている。ワンタッチの細かいパス交換はほとんどない。

 リズムが単調、パスが単調となると、ディフェンダーは非常に守りやすい。たとえば、オフサイド・トラップ。「1→2→3」というタイミングでラインを上げれば、ほぼ100%網にかけられる。ワンタッチやツータッチのパスを混ぜれば、ディフェンスラインの呼吸が合わず、トラップを崩せるのだが……。

 瞬時に短く速いパスを出せないのは、第1に効き足でない左足が使えないこと、第2にアウトサイドでチョンと押し出すパス(足の振り幅が狭いパス)に慣れていないからだろう。右足に持ち替え、インサイドまたは足の甲を選択する時間のロスが、インターセプトからの速い攻守の切り替え、ワンタッチパスでの速いカウンターを不可能にしている(レアル・マドリーのカウンターは、ベッカムからのロングパスをロナウドへ、というパターンに限られている)。相手はロングパスさえ警戒しておけばいいから、これも守りやすくなる。

【3】ダブルボランチの連係の不在=戦略的な欠陥

 これはベッカム自身の欠点ではなく、レアル・マドリーの戦略上の欠陥である。

 ダブルボランチの場合、2人のボランチは連係しあって、攻守のバランスをとるものだ。レアル・マドリーをシステム図で書くと「4-2-3-1」だが、グラウンド上では同じ高さに左右に並ぶシーンはほとんどない。1人が前、1人が後ろでもいいし、左右が入れ替わっても構わない。要は、試合の状況や戦い方(前がかりか、後がかりか。サイドバックの攻撃参加による穴の埋め合わせなど)を調整する、バランサーとして機能していればいいのだ。

 ところが、レアル・マドリーの2人のボランチには、連係プレーがほとんど見られない。

 例えば、マジョルカ戦の前半、ベッカムとエルゲラがパス交換をしあったのはわずか1回! 左右のポジション交換に至ってはゼロだった。

 戦略のセオリーでは、片方のボランチがボールを受け取った場合、もう一方のボランチは近づいて、パスの受け手とならなければならない(必ずパス交換せよ、というのではない。パスの選択肢を増やすだけでもいい)。なぜなら、ボランチ間の短い安全なパス交換は、相手のプレッシャーをかわし、攻守の切り替えをスムーズにするからだ。バレンシアのバラハとアルベルダ、デポルティーボのマウロ・シルバとセルヒオなら、当たり前に見られるプレーだ。

 だが、ベッカムとエルゲラは別々に勝手にプレーしていた。両者の役割分担などないように見えた。

 セオリーでは、ダブルボランチには守備的な選手と攻撃的な選手が置かれ、1人がボールを奪い、1人が攻撃の起点、という役割分担になっている。例えばバレンシアなら、「アルベルダがインターセプトしたボールをバラハがもらい、アイマールに送る、あるいはサイドへ展開する」という、守りから攻めへの切り替えパターンが決まっている。むろんこれは原則であり、バラハがインターセプトし、アルベルダが攻撃の起点になることもある。要は、分担は状況により変わるが、一方が守り、他方が攻撃の起点、という役割は変わらないということだ。ダブルボランチは、こうして有機的に役割を分担・交換し合ってこそ機能する。

 しかし、ベッカムもエルゲラも、そこそこ守り、そこそこ攻めていた。2人ともボランチとしては、中途半端に攻撃的で守備的な選手だからだ。ベッカムを守りに専念させるのは心もとないが、攻撃の指揮権を任せてしまうのも不安(エルゲラも同様)――。ベッカムがマケレレならば、あるいはエルゲラがマケレレならケイロス監督も頭を悩ますことはなかったろう。

 この戦略上の欠陥は、ベッカムとグティ、ベッカムとカンビアッソ、という組み合わせにも共通するもの。結局、ケイロス監督は、シーズンを通して「個人の判断と能力に任せる」という答えしか用意できず、チーム戦略としてダブルボランチを機能させることができなかった。

【4】守備技術の未熟さ=腰高、体の入れ方

 ディフェンダーとして、ベッカムの技術が未熟なことは、すでに指摘した(ディフェンダーとしてのベッカム。豊富な運動量と未熟なテクニックの関係。)。

 繰り返しになるので詳しくは書かないが、(1)足を揃えて相手を待つ癖があるので、ドリブルで抜かれやすい (2)足だけを入れるので相手ボールを奪えない (3)腰高でマイボールを守るのが苦手、という3点は、中盤の底の守備を任せるには、あまりに不安だ。

 このテクニック不足をベッカムは豊富な運動量と集中力で補ってきた。ガムシャラに走り、スライディングタックルし、決して諦めずボールを追う姿は、多くのサッカーファン(レアル・マドリーファンだけではない)の賞賛を集めた。が、当時、1試合で13kmを駆け抜けると言われた躍動感は、今はもうない ――。

「ボランチ=ベッカム」の評価はチームとともに急降下した。ファンに愛される彼は、今のところブーイングにさらされてはいない。が、イギリス時代の華やかさは失ってしまった。

 体調とモチベーションを回復すれば、再びそこそこは活躍するだろう。しかし、彼のプレースタイルや特徴がボランチに合っているかは疑問だ。私ならベッカムを右サイドへ戻す。ただ、「では、フィーゴはどうする?」という大問題が残る。そこは新監督に解決してもらうしかない。

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