佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

理不尽な追突に、憤り半分、呆れ半分。 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta

posted2004/09/03 00:00

理不尽な追突に、憤り半分、呆れ半分。<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta

 「この件は次のレースのドライバーズ・ブリーフィングでも言うし、チャーリー(ホワイティング:FIAレース・ディレクター)にも言う」

 レース後、ウエーバーが追突して来た一件に話がおよぶと、佐藤琢磨はあきれた顔をしてそう言った。ジャガーのウエ ーバーに理不尽な追突をされての0周リタイア。非は100%相手側にある。

 リタイアして2時間ほど経っていたこともあって怒りはある程度治まっているようだったが、察するに内心は「アホ!」「コノヤロー!」「さっさとどけよ!」だったのではなかったか。順調なら3位表彰台もありえたのだから、それも当然である。

 雨にたたられた予選は15位。琢磨がアタックする頃には雨が止み、路面はウエットながら水の量が少なくなり、深溝のウエット・タイヤでなく、浅溝ウエット・タイヤで走れる状況になっていた。しかしBARチームは浅溝ウエット・タイヤのテスト経験がほとんどなく、深溝で琢磨をアタックさせた。これは明らかにタイヤの選択ミスで、コースの半分も走らないうちに異常発熱を起こし「グリップがなくなり、トラクション(推進力)がかからなかった」と言う。結果は15番手。トラブルやスピンがなかった予選としては今季ワースト。バトンも12番手だったところを見ると、BARチームの経験不足、決断力不足がもろに出た結果だった。

 しかし晴れた決勝日のスタートでの琢磨は、鋭い加速と1コーナーのイン側をキープするコンパクトなラインで予選の不利を挽回。一気にシングルに浮上する。スタートしてすぐ前のクリエン(ジャガー)を抜き、1コーナーでは思いっきり遅いブレーキングでウイリアムズ勢をインから差し、外側でゴチャつくザウバー勢、パニスらを抜いて、1コーナーを立ち上がった時はルノー勢、クルサード、フェラーリ勢、ライコネン、ウエーバーに続く8番手となっていた。なんと7台のゴボー抜きである。

 しかも前は完全にワイド・オープン・クリア! 琢磨は全開で坂を駆け下り、名物コーナーのオールージュに突っ込んで行く。

 ところがそこにウエーバーがいた。1コーナーの多重接触でフロント・ウイングを失ってスローダウンしながら、たった1本しかないレーシングラインを後続に譲ろうともせずキープする。ウエーバーと琢磨の速度差およそ100?/h。ルールもマナーもあったものじゃないウエーバーへの追突を避けるために琢磨は急ブレーキをかけ、上り坂に向けてフルスロットル。ウエーバーを右からかわしにかかる。そのさらに右にはさっきの急減速で追いついて来たモントーヤ。2台並んでウエーバーを抜き、視界が晴れた! と思った瞬間、左後ろからドーンと衝撃を受け、マシンは浮きながら横を向き、進行方向反対側を向いてコースを外れ、草地を滑って行って止まった。後ろでは2次アクシデントも発生しており、レースはセーフティカーが出動、先導して続行。赤旗中断ならスペアカーに乗り換える手もあったが、それも叶わなかった。

 これが2年ぶりのスパ-フランコルシャンでの佐藤琢磨の短すぎたレースの顛末である。

 リタイア後、ウエーバーに問い詰めると「どうしようもなかった」と言うばかり。琢磨は「あれは『どうしようもあった』ですよ」と、憤り半分、呆れ半分。

 ウエーバーへの追求はしなければいけない。しかしレースはレースで流れて行く。レース明けの週の水〜金曜日はモンツァで3日間のテスト。いよいよ日本グランプリ用の鈴鹿弾(鈴鹿専用エンジン)をテストする。結果がよければ計画を前倒しして9月12日のイタリア・グランプリに投入されるかもしれない。「1ヵ月半のテスト禁止期間中むずむずしてました」という佐藤琢磨の長かった夏休みは終った。

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