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突然の引退に残る違和感。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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posted2008/03/31 00:00

突然の引退に残る違和感。<Number Web> photograph by AFLO

 このコラムを請け負って以来初めて、2週連続で同じ選手を取り上げることをお許し願いたい。桑田真澄投手の現役引退は、やはりそれに値する出来事だと考えた。

 桑田投手の引退劇は、現場で取材している我々にとっても本当に唐突な出来事だった。毎日のように選手のマイナー降格や解雇が行われ始めた3月26日、この日も早朝からハンティントンGMの記者会見が行われた。発表では新たに3投手が削られると同時に、1投手をトレードで獲得。GMは、桑田投手を含めた6 投手が残り3枠を争っていると付け加えた。ところが……。

 それから1時間ほど経っただろうか、桑田投手の練習を見守っている記者たちの携帯が一斉に鳴り出した。もちろん自分の携帯にも、仕事先の通信社から電話が入った。

 「今日本のTVニュースで桑田投手が現役引退を発表しているんですよ。彼は今何をしてますか?本人からすぐコメントが取れませんか?」

 いうまでもなく、他の記者が受けている電話もすべて同じ内容だった。とにかく皆で顔を見合わせるしかなかった。ついさっきGMの話を聞いたばかりだけに、何が起こったのか皆目検討もつかない状態だった。

 「昨年右足首の手術をしてリハビリも大変だったが、開幕メジャーを目標にやってきた。(キャンプの)最後まで残れたが、最後の最後でメジャーにいけなくなったので引退を決意しました」

 結局桑田投手の意向で、オープン戦の試合後に行われた記者会見まで本人の明確な言葉を聞くことができなかった。そして明らかにされたのが、すでに桑田投手が以前から引退を決意してチームに伝えていたことと、チームが桑田投手の要望を受け入れ、会見まで一切の引退に関する発表を控えていたということだった。

 「(右足首の)リハビリは僕の中ですごくきつかったです。(それを支えた)モチベーションが開幕メジャーそれだけだったんです。開幕メジャーに残れなかったらボールを置こうと決意していました」

 会見で桑田投手は、何度も開幕メジャーを果たせなかったことを強調した。確かに引退を決めた直接原因なのだろうが、どうしても自分の中にしっくりいかない部分が残っている。もっと複雑な心の葛藤があったはずだからだ。

 というのも、桑田投手はキャンプ中に、開幕メジャー入りを果たせなかった場合でもマイナーに回ってメジャー昇格を目指す意向を口にしているのだ。1つは桑田投手が親しくしている報知新聞の記者がそれを記事にしているし、もう1つはMLB.comのパイレーツ担当の記者が、同じような記事をパイレーツの公式サイト上に掲載している。そして自分自身も、これら2つの記事について桑田投手の気持ちを確かめたところ、本人から直接同様の言葉を耳にしていた。

 その内容は、昨年は右足首の状態が悪く自分が納得できる投球ができていなかったこと。それが今年は手術した結果、かなりベストコンディションに近い状態になり、イメージ通りの投球ができていること。オープン戦で投げながら自信も掴み始めていること。そして本当の自分の投球をして、改めてメジャーの打者と対戦したい──という熱い思いだった。

 そんな桑田投手の気持ちを萎えさせてしまったのが、パイレーツ首脳陣の評価だったようだ。会見に出席したハンティントンGMは桑田投手の挑戦に賛辞を惜しまなかった一方で、桑田投手はシーズン途中のメジャー昇格の可能性について聞かれ、

 「その話も(GMと)したんですよ。でもその可能性もないということだったので」

 つまりパイレーツは桑田選手に対し、今シーズンの戦力から“戦力外”の判断を下していたわけだ。確かにオープン戦で結果を残し続けているにもかかわらず、桑田投手が定期的に登板機会を与えられることはなかった。首脳陣が戦力として見極めたいと考えていたのなら、もっと実戦登板を見たいと思うのが普通だろう。

 「ここ(パイレーツ)で最後までと思ってました。自分の人生なので自分の納得するようなかたちで終わりたいですよね」

 日本ではジャイアンツ一筋を貫き通し、メジャーでもパイレーツ一筋にこだわった、桑田投手の“人生の美学”があったからこそ、潔くマウンドを去る決意ができたのだろう。だが、前述のような熱い思いを耳にし、オープン戦で投げながらその投球内容が良くなっていった姿を目撃していた自分にとっては、会見場で桑田投手が口にした「燃え尽きた」、「思い残すことはない」という言葉を素直に受け入れることができないでいる。

 (まだ他球団に行けば、メジャーのマウンドに戻れるのでは…)

 プロ23年目のわずか1か月半しか取材していない自分には、桑田投手の本心を知る術はない。ただ何とも言えぬやるせなさを感じているのは確かだ。

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