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この全力疾走を見よ。 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

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posted2006/06/21 00:00

 6月に入ってから、興味深い野球を数試合見た。4日に行われた東都大学リーグ1、2部入替戦の国学院大対立正大、6日からスタートした大学野球選手権では7日の関東学院大対第一経済大、8日の福岡大対青山学院大、福井工大対名城大戦が心に残った。

 10〜14日は大学選手権の準々決勝以降を捨てて、四国に渡った。アメリカの高校生選抜チーム(エリアコード大会の選抜チーム)が来日し、これを香川、高知、愛媛、広島、大阪、京都の各府県選抜チームが迎え撃つという親善試合を見るためである。

 東都大学リーグの国学院大対立正大戦は、この試合に勝てば国学院大の1部昇格が決まるという大事な一戦。5対2で国学院大がリードし、9回裏の立正大の攻撃も2アウト、ランナーなし。しかし、ここから四球、内野安打、内野安打、押し出しの四球で1点返し、3番土井勝佑城の2点タイムリーで同点に追いついてしまった。

 2部に落ちればゴルフ練習場も兼ねる神宮第二球場で試合をしなければならないし、マスコミの報道も極めて少ない。「板子一枚下は地獄」とは船乗り稼業の過酷さをたとえる言葉だが、東都大学野球リーグにも同じことが言える。この入替戦があるから東都大学野球は強いのだなと認識を新たにした次第。ちなみに、翌5日には国学院大が立正大を下し、27季ぶりの1部昇格を果たした。

 大学野球選手権の関東学院大対第一経済大戦では、関東学院大の全力疾走に目を奪われた。永山巌、上森清伸、岩永雅大、原拓也、江口大樹、馬場裕昭、田邊弘一郎の7人が全力疾走の目安となる「一塁到達4.29秒未満、二塁到達8.29秒未満、三塁到達12.29秒未満」をクリアしたのだ。ストップウオッチを持ち始めて4年半、850試合以上経っているが、1チーム7人以上のタイムクリアは03年春の亜大以外、見たことがない。なお、鈍足の目安となる4.8 秒以上の選手はゼロ。4.6秒以上でさえ永山の第2打席、三塁ゴロの4.62秒ただ1つで、あとはすべて4.59秒未満で走り抜けているのだ。現在の日本でこれほどの走力を持っているチームはいないはず。こういうチームを作り上げた小泉陽三監督は偉い。一体、どういう動機づけを選手に行ったのか聞いてみたい。

 福岡大対青山学院大戦も全力疾走が目立った。タイムクリアした人数は福岡大6人、青山学院大4人。九州のチームは高校野球でも全力疾走が目立つが、何か秘密があるのだろうか。

 福井工大対名城大戦では名城大の3年生右腕、山内壮馬がよかった。この日のストレートの最速は146キロ。真上からの腕の振りで角度は十分。カーブ、スライダーのキレ味も十分で、希望枠という制度が続いていれば来年はその候補になるだろう。4年生の清水昭信も1回戦の京都学園戦で抜群のスライダーとチェンジアップのキレ味を見せつけた。ストレートの球速は東京ドームのスピードガンで144キロだから、神宮のスピードガンで146キロを記録した山内より上。このストレートを見せ球にして変化球を操る超絶技巧に痺れっ放しだった。

 さて、四国で行われた日米対決だが、アメリカチームの鈍足ぶりには怒りを通り越してあきれてしまった。守りの意識も低く、バッティングも粗っぽい。そのアメリカチームに香川、愛媛は負けているのだから、何をかいわんやである。

 シートノックでアメリカ選手が外野からボールを投げると、観戦していた地元の球児が「おお〜っ」とか「すげぇ〜」という声が洩れる。けっして強肩というわけではない。大きい体の高校生が大きいフォームで投げているだけなのである。欧米に対するこの国のコンプレックスは相当に根が深いと思った。大阪と京都の高校生には是非粉砕してほしい。

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