MLB Column from WestBACK NUMBER

日本は本当に世界一になったのか? 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byNaoya Sanuki

posted2009/03/28 21:27

日本は本当に世界一になったのか?<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 第2回WBCは、日本の2連覇達成で幕を閉じた。今大会5度目の対戦となった韓国との決勝戦は、その球場の雰囲気、試合内容の密度の濃さと、どれをとっても国際大会に相応しいものだった。3年前の第1回大会を上回る観客動員数を記録し、決勝戦の大会史上初となる5万人を超えるファンがドジャー・スタジアムに集まった。まさに最高のフィナーレを飾ったわけだが、どうしても自分の中では、「終わりよければすべてよし」と割り切ることができないのだ。

 今や日本国中がすっかり祝勝ムードに浸っている最中に水を差すようで恐縮なのだが、連日報道されているように、日本は本当に“世界一”になったのだろうか? 確かに、今大会でチームとして最も完成度が高かった韓国に3勝2敗と勝ち越し、キューバにも連勝した。自分も間違いなく参加チーム中“最強”の戦いをしたと実感している。しかしそれは、あくまでWBCという舞台での現実なのだ。結局第2回大会の取材を通じて感じたことは、WBCが国際大会というのは名ばかりで、あくまでもMLBの国内収益イベントであるという本質の部分を垣間見てしまったからだ。

 すでに2連覇達成直後から日本でも様々な批判が出ているように、まだ2回しか実施されていないWBCの問題点を指摘すれば枚挙にいとまがないだろう。だが自分が指摘したいのは、その根幹から国際大会とはかけ離れているのではないかということだ。

 その1つが、プエルトリコ中心に取材した前回大会では感じなかったことなのだが、今回メキシコシティからマイアミと回ってみて、取材メディアの極端な偏りがあることだ。メキシコシティでは南アフリカはもちろんこと、オーストラリアからやってきたメディアは誰1人としていなかったし、マイアミでも快進撃で2次ラウンドに進出したオランダのメディアも皆無だった。結局大会を通じてWBCを取材したのは、その規模の大小が異なっただけで、普段MLBを取材している国だけに限られていたということだ。ほぼ米国生まれが揃ったイタリアとか統治下のカリブ諸島出身が大半を占めるオランダのように代表基準の曖昧さもあるだろうが、それ以上に参加国の中ですらWBCが認知されていないというのが真実なのではないか。

 観客にしてもそうだろう。サッカーのワールドカップのような世界有数の国際大会では、参加国のファンが大挙して開催国に集結するが、WBCでは2次ラウンド以降、あくまで米国内のファンに頼っていた。だからこそMLBの本来のファン層である米国民のほとんどから関心を集められなかった分、観客席には空席が目立ち、球場に足を運んだ大半が、球場で国歌を合唱し、代表チームを思う存分応援しながら自国のアイデンティティーを確認できたマイノリティたちだったのだ。決勝ラウンドが別の場所で行われていたり、ロサンゼルス地域に巨大なコミュニティを持つ日本や韓国が2次ラウンドで敗退していたのなら、あの盛り上がりはなかったと断言していい。

 ではなぜ米国民は、WBCに無関心なのだろうか。3月17日の対プエルトリコ戦で、9回裏に2点差をひっくり返し逆転サヨナラ勝ちで2次ラウンド進出を決めた米国の記者会見で、米国メディアの1人から監督、選手に対し以下の質問がなされた。

「このトーナメントがエキジビションだという論議が多くでているが、あなた方も同じように感じているのか?」

 この質問を耳にした時、これこそが大勢の米国民の偽らざる本音だと感じた。それもそうだろう。大会前に報じられたニュースの大半が、主力選手の代表入り辞退表明ばかり。今回の米国が最強の代表チームだと誰1人考えるはずもなく、そんなチームが出場するWBCが真の国際大会だと捉えるはずもない。そんな贋物を見るくらいなら、間近に迫ったMLBの開幕まで待った方がいいと考えてもなんの不思議もないだろう。

 だがWBCがどんな批判を受けようとも、主催者であるMLBと選手会が利益を得続ける限り、多少の変更点はあったとしても国内収益イベントいう本質部分が変わることはないと思っていい。そして日本でも、多少なりMLBの戦略に肩入れしている部分はないだろうか。前回もそうだったが、日本もWBCを野球人気回復のカンフル剤に利用している向きが強く、国民が盛り上がっていれば敢えてWBCの問題点を表面化する必要はないという風潮がないとは言い切れない。

 一方で、明るい材料もあった。大会を通じて参加した選手たちはすべて間違いなく全力を尽くして戦っていた。その意気込みは前回とは比較にならないぐらい高かったのだ。

「ドミニカ、プエルトリコ、キューバ……。我々カリブの人間は、野球を食して生きている。決勝戦がどの国だろうと関係はない。とにかく野球を満喫したいんだ」

 カリブ諸国向けに中継を行ったESPNのスペイン語放送「ESPNデポルテス」の名物レポーターは、嬉しそうに話してくれた。そんな彼も、決勝戦の後はすっかり興奮していた様子だった。もしWBC期間中に決勝戦のような白熱した試合が連日行われたならば、米国民の意識も確実に変わっていくだろうし、結果的としてファンの要望が強くなれば、WBCも国内イベントという現状を変えざるを得なくなるという可能性も否定できない。

 開催時期、所属チームとの契約問題、球数制限、準備期間のチーム格差──等々。すべての“足枷”をなくし、選手たちが心ゆくまで本当の世界一を競い合える日が来るのを切に願って止まない。

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