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活躍を予感させる、これだけの理由。 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph bySusumu Nagao

posted2009/03/19 15:40

活躍を予感させる、これだけの理由。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

 あの『ヌルヌル事件』以来、なにかと格闘技界の話題の中心になることの多い秋山成勲だが、先日は人気モデルのSHIHOと婚約発表するなど、今ではワイドショーをも賑わす存在になっている。おまけにルーツである韓国でもたいそうな人気のようだし、まだ秋山に対し拒絶反応を示す日本の総合格闘技ファンも多いが、考えようによっては今や彼ほど総合格闘技を世間にアピールできる選手もいないのもたしか。「ああ、あの人ね」と魔裟斗や山本KID、桜庭和志のように誰もが知る、格闘技界のアイコンなのである。

 そんな秋山が、今夏にアメリカのUFCにチャレンジするという。

 昨年の9月に開催されたDREAM.6以来、大晦日も含め試合をしておらず、その動向が注目されていたわけだが蓋を開けてみて現れた舞台はUFCというメジャー級。だが、さして驚きはなかった。やっぱりな、といった具合だ。

 事実上、日本でトップクラスの力のある秋山。良い選手をとにかく欲しがるUFC代表のダナ・ホワイトが放っておくわけもない。デビュー前の石井慧にも、唾をつけている男である。案の定、DREAMとの契約問題がきれいになった年明け早々にアプローチがあったそうだ。その実力はもちろんのこと、UFCが目論むアジア市場進出、あるいは在アメリカ日本人や韓国人へ対するプロモーションなど、ビジネス的な面を考えても獲得するメリットは高い。ふてぶてしい面構えに、物おじしない役者ぶりなど、際立ったキャラクターを持ち合わせているのも魅力だろう。また、6試合の契約をしたというが、UFCは日本以上に結果を出さなければ試合を組んでくれないシビアな面がある。秋山がもしアメリカンドリームを実現するならば、とにかく正々堂々と勝ち続けなければならない。

 では、秋山はUFCにアジャストできるだろうか? ミルコ・クロコップやアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、そしてヴァンダレイ・シウバなど日本で活躍した選手たちがことごとく苦戦している事実があるだけに、楽観視はできないだろう。リングよりも広い八角形のオクタゴンだが、背後には金網がありその圧迫感はかなりのもので、下がっての戦いは不利になる。また、DREAMのルールと決定的にちがうのは肘での攻撃が許可されていることだろう。ミルコなどはこれで泣かされた。基本的には日本のように寝技や打撃の“技術”で魅せるというよりも、質実剛健、アスリート的な強さが必要とされる。とにかく強いフィジカルを軸にしたレスリング&パウンドが中心。グラウンドになっても下にはならずトップをキープしつつ攻撃を加える、といった具合だ。

 果たして秋山がこのスタイルに順応するのかどうかといえば、見通しは暗くはないように思える。

 なぜなら、まずUFCで戦うために絶対に必要なフィジカルの強さだが、あの秋山のしなやかなバネとパワーを兼ね揃えた肉体は、UFCで戦うのに十分ではないかと考えられる。柔道で鍛えた肉体は、爆発力と適度な持久力があり、足腰も十分に強い。

 また、肘での攻撃への対応力だが、これも意外と早いのではないだろうか。他の格闘技出身者としては一番早く総合を体得した器用さに加え、打撃でも柔道選手だったと思えない非凡なセンスを見せている。

 そして最も心強いのは、彼をとりまく環境だ。練習場所にしている和術慧舟會には、現在UFCミドル級トップ選手の岡見勇信や、再びUFCの舞台に立たんとする宇野薫らが所属しており、日本で唯一といってもいいぐらい金網で戦う最先端の理論や、戦術がノウハウとして蓄積されている。クレバーな秋山のことである、傾向と対策が練れれば、そう順応には長い時間はかからないのではないだろうか。

 秋山はミドル級での参戦を希望しているようだが、ここには現王者のアンデウソン・シウバ、また岡見らが集うハイレベルな階級である。おそらく一筋縄ではいかないだろうが、茨の道や不利な状況が一番似合う、逆境にこそ強い選手である。良くも悪くも、我々をハラハラさせてくれるようなファイトをしてもらいたいものだ。

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秋山成勲

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