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世紀の移籍騒動 

text by

酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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posted2009/01/23 00:00

世紀の移籍騒動<Number Web> photograph by AFLO

 世界中を揺るがしたブラジル代表でACミランのMFカカの移籍騒動は、カカ自身が翻意したことで「もとのさや」に収まった。カカは「神のお告げに従った」とミラン残留を表明。「僕が所属すべきところはミランである」と再びチームへの忠誠を誓った。

 ミランに在籍後初めて経験した移籍問題についてカカが語る。「『交渉には応じない』と確固たる姿勢を示してきたミランが突然翻ったので(移籍を)考えた」カカの放出に乗り気だったのは皮肉にもミランだったことが選手の告白によって明るみになった。

 ミランは本気でカカを手放すつもりだったのか。今回はその真相に迫ってみた。

 まずはカカ放出の動機について考える。

 カカの獲得に向けて今夏、イングランド・プレミアリーグのチェルシーが、昨年はスペインの名門レアルマドリードが破格の移籍金を提示してミランの扉をノックした。その都度、ミランは「カカは放出不可能な選手」とオファーを却下してきた。ところが、今回は「非現実的」とされた移籍交渉に臨む。金銭面で合意したことを早々と公表した。カカに退団を容認する構えを見せると、ミランの名誉会長のベルルスコーニ伊首相は「年俸1500万ユーロを手に出来る機会を棒に振ってはならない」と、移籍で揺れているカカにイングランド行きを勧めたのだった。

 人気選手の放出に踏み入ったのは金銭への執着か。

 恥骨炎の再発でカカの不振が表面化した。彼の最大の武器である高速ドリブルや必殺ミドルシュートを目にする機会も激減。それに輪をかけるようにFWロナウジーニョの加入で、ミランにとってもはやカカは戦力面において不可欠な選手ではない。そんなカカに総額5000万ユーロ以上(年俸手取り1000万ユーロ)の支払いを余儀なくされる現状に疑問を抱き、「これ以上のカネは出せない」と高額年俸が重圧となっていることを示唆した。マネーのためなら、カカに興味を示すクラブが好条件を提示して、選手の気持ちが傾けばミランには好都合である。

 何故マンチェスターシティに限ってカカの移籍を暗に容認したのか?

 レアルやチェルシーのように欧州の強豪にカカを与えることはライバルの戦力強化につながる。ところが、CL出場の可能性が低いマンチェスターシティならそんな不安材料はない。

 しかしながらミランはマンチェスターシティの条件に同意した後、不可解な言動に出た。カカを移籍させることに腹を据えかねたミランの幹部らが、運命の日の白昼に緊急会談を行い、その数時間後、移籍を覚悟したカカに「カネに執着せず、現状を考えろ」と残留を打診した。マンチェスターシティ側のコメントによれば、カカの退団を容認し、署名までしたミランが消極的な態度を示したらしい。

 マンチェスターシティの意向で移籍交渉は白紙に戻されたが、カカの放出を不問に付すミランの動向により、この移籍騒動はミランを優位にするために仕組まれた「芝居」だったという見方が強まった。

 欧州チャンピオンズリーグ出場の切符を逃したシーズンであってもミランが「最強軍団」であることを世界に示すために「宣伝」する必要がある。プロパガンダの目的はビッグスポンサー集め。いわゆる資金稼ぎである。1カ月前、MFベッカムの期限付き移籍によって広めた「ミラン」の名を、再び轟かすためには、世界のメディアを巻き込むのが第一だ。こうして「史上最高額の移籍金でカカを放出する」という電撃的なシナリオでミランは各国のメディアを乗っ取ったように思える。

 案の定、カカの去就に世界中が注目。移籍交渉が発覚した1月14日以降、欧州各国のメディアは連日このニュースを取り上げ、過剰報道によってミランの「凄み」は十分に証明されたものの、カカがいなければスポンサーの提示額が下がるかもしれないという懸案があった。ミランの幹部がそう思い始めると、カカへの説得にシフトを替えたのだろう。

 ミランは、「栄誉」にこだわるあまり奇行に走ったのだとすると、従順なカカは被害者である。表向きはミランへの愛を理由に残留したカカではあるが、この一件をどう判断するか。来季はレアルでプレーするカカが誕生しそうな気振りが見える。

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