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2007プロ野球開幕 混戦を勝ち抜く条件。 

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阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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posted2007/04/19 00:00

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[観戦レポート]2007プロ野球開幕 混戦を勝ち抜く条件。

阿部珠樹=文

text by Tamaki Abe

パ・リーグのカギを握る若き「大エース」の存在。

 両リーグそろってプレーオフをおこなうはじめてのシーズンがはじまった。ペナントレースで3位までに入れば日本一への道が開ける。順位争いがこれまでよりもいっそう激しくなることは容易に想像できる。

 ただ、先にプレーオフを取り入れたパ・リーグの各チームは、このシステムでの戦い方について、かなりはっきりしたイメージを持っているのではないか。

 大エースがいること。それが必須条件だ。去年、プレーオフに勝ち進んだ3チームのうち、ホークスには斉藤和巳、ライオンズには松坂大輔がいた。日本一のファイターズは後半戦負け知らずだったダルビッシュ有がプレーオフ、日本シリーズで2勝した。ペナントレースの柱になるだけでなく、プレーオフでも確実に1勝以上を計算できる大エースを持つこと。大エースなどというと、金田、稲尾の昔を想像するが、去年の戦いを見るとやはり大エースを持つことの有利さがあらためてクローズアップされたのではないか。

 強力な補強をして、圧倒的に前評判が高いホークスは斉藤が健在だ。開幕戦こそ勝ちを逃したが、2戦目できっちり白星をものにした。まだ本調子とはいえないが、コンディションに問題はなく、じきにあの威圧感のあるマウンドさばきがよみがえってくるだろう。

 優勝チームのファイターズは開幕投手にダルビッシュを立てた。去年後半の戦いから考えれば当然だろう。マリーンズを相手にした開幕戦では、抜群の球威で、完封を演じかねない内容だった。当日は小雨混じりの曇天で、湿度が高かった。バットの折れにくい気象条件である。その中でマリーンズ打線のバットを5本もへし折った球の力は去年以上にも見えた。

 ただし、それだけの球威を見せながら、勝ち星でスタートすることはできなかった。甘く入ったストレートをフリオ・ズレータに満塁本塁打され、引き分けに持ち込まれてしまったのだ。苦手とする球場、どんどん風が強くなり、気温が下がる悪条件、自分の守備のミスや四球と、悪いお膳立てがそろったところでの失投だった。

 本拠地に戻った2戦目の先発試合も、ライオンズから14三振を奪う力強い投球を見せた。特に走者を背負って、どうしても三振が欲しいという場面で、しっかり三振を取りきる集中力はみごとだった。去年のプレーオフでもそうだが、ダルビッシュは相手投手が好投すると、よりいっそう力を発揮する傾向があるように思われる。

 ただし、この試合も白星で飾ることはできなかった。9回まで投げて2失点だから責められないが、打線の不調から1点もやれないという気負いが前半の失点につながった。打者との力勝負という点ではいまやリーグを代表する投手になったダルビッシュにとって、大エースと呼ばれるための課題があるとすれば、苦境でのセルフコントロールということになるだろう。それが克服できれば、ファイターズの去年の快進撃が再現されるかもしれない。

 ダルビッシュと同期のライオンズの涌井秀章は開幕3戦目のマリーンズ戦に先発し、完投勝利を飾った。ストレートは140kmそこそこと去年の力強さは感じなかったが、コントロールと投球テンポのよさはその不足を補って余りあるものだった。涌井はキャンプで右打者の内角を突くシュートに取り組んでいたが、そのシュートと外角のカーブ、スライダーのコンビネーションも抜群だった。

 ライオンズにはベテランの西口文也がいる。格からいえばエースは西口。開幕投手もその西口だった。しかし西口は確実に計算できるが、大化けは望めない。松坂の後継者として、涌井にかかる期待は大きい。その涌井が、コンディションがいいとはいえない中で、成熟した投球を見せたことはライオンズにとって大きな収穫だった。伊東監督はキャンプのとき、「投手王国を復活させたい」と語っていたが、その構想の中心に涌井がいることは間違いない。

 将来を託す素材といえば、イーグルスの田中将大にも触れないわけにはいかない。野村監督は、このドラフト1位を、リーグ随一の強力打線を持つホークスとの試合に初登板させた。しかも敵地である。ホームで比較的楽な場面で投げさせるという考え方も当然あったろうが、あえてきびしい条件を与えて、その能力を見極めようとしたのだろう。

 結果は2回途中6失点でKOという無残なものだった。高校では打者が空振りしてくれたボールになるスライダーを、プロの打者は振ってくれない。見られた末にコースが甘くなって痛打される。走者を出してけん制するのはよいが、そちらに気を取られすぎて打者への投球がおろそかになる。なにより高校2年で150km台を記録した力強いストレートが見られなかったのが残念だった。

 しかし、ホークスの強力打線を相手に、思い切って内角を突く攻撃的な投球は高卒ルーキーとは思えないものだったし、四球を出して自滅という若い投手にありがちな場面もなかった。野村監督がどこまでがまんして起用しつづけるかはチーム事情にもよるだろうが、この好素材がエースと呼ばれるようになれば、イーグルスがプレーオフ圏内に食い込む可能性も出てくるだろう。

 マリーンズは開幕5戦目に渡辺俊介が完投勝利を飾った。一昨年の勝ち頭だが、去年はWBCでコンディション作りがむずかしかったこともあり不本意な成績に終わった。渡辺が一昨年のような活躍をすれば、ズレータの獲得、若い野手の台頭など攻撃面での上積みが期待できるだけに、当然マリーンズもプレーオフ圏内に食い込んでくるだろう。

 シーズンを通してエース探しの旅がつづきそうなバファローズを加えて、誰が大エースと呼ばれるような投球を見せてチームを導くかに注目しながら見てゆきたい。

(以下、Number676号へ)

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