野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
一戦必勝体制の横浜ベイの救世主?
心を入れ替えて復活した吉村裕基。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/05/11 12:40
5月8日の阪神戦でサヨナラホームランを放ち、でんぐり返しでホームインした吉村。チームの雰囲気も明るくなった今季。吉村の無邪気で輝くような笑顔も復活している
ライトを守る背後で容赦なく浴びせられた残酷な野次。
この間、輝ける期待の大砲の溌剌とした姿はどこにもなかった。得点圏にランナーを置いても無策な一発狙いでバットは空を切り、外野の守備でも凡ミスを連発。そんな吉村のプレーに、ライトスタンドのファンからのタメ息、そしてヤジは日増しに激しさを増していき、いつしか一部ファンから応援歌を「タマ~に勝利を呼び込む~豪快なスイング、ユーキ! ユーキ! 狙うと打てなーい」なんて替え歌まで歌われる始末。
「嫌いだったり、憎いわけじゃないんですよ。ただ、守備の雑さも、狙うと打てないがタマには勝利を呼び込む豪快なスイングってのも事実でしたからね。彼に対するイメージそのまんまの替え歌ですよ」(替え歌を考えたファン)
ライトを守る吉村の背中から聞こえる強烈なヤジ。
かつて同じように不振にあえぎ守備でもやらかしていた古木克明(現格闘家)が、「何を言われても、頑張れと言われてもバカにされているようにしか思えなかった」と気を病んでしまったように、味方から背中を撃たれるものほど応えるものはない。
野次に対して頑なな態度をとり続け、沈んでいった吉村。
それでも、多くのプロ野球選手はその壁を乗り越えてきた。
自軍の応援団の目の前でプレーするライト(もしくはレフト)は、ある意味メンタルのポジション。暗黒時代の辛い罵声を乗り越えて現在の地位を築いた阪神の桧山のような選手を見ていると、その壁の前でどう振る舞えるかが選手としての分かれ道のような気さえしてくる。
だが、野次に対して吉村は頑なになった。
ライトスタンドの声援にも応えないことが多くなり、サインボールも内野席だけに投げ入れる。それでも声援を送り続けるファンはもちろんいたが、吉村の態度にこれまで擁護していたファンも少なからず呆れかえった。
「こちらを見ないように後ろ向きでバックしながら守備位置に着く。『吉村コール』にも後ろを向いたまま帽子をちょっと取っただけ……なんてこともありました。こちらの野次が原因だってことはわかっていますけど、あの態度には腹が立つ以前に、あ然としました」(ライトスタンドのファン)
両者ともに汲むべき事情はある。だが、その関係は修復不可能なところまでこじれていた。弱いとこんなことまで起きてしまうという典型的な例というべきか、なんというべきか。
当の吉村は苦しんでいた。自分のスタイルを見失ったかのように打撃フォームはくるくると変わり、昨シーズンには'06年以来はじめてファームに落とされ、最後まで復調は叶わず。レギュラーは下園辰哉に奪われて、オフには大幅減俸の提示。新聞紙上にはトレード要員という報道も出るなど、文字通り崖っぷちにまで追い込まれていた。高卒4年でレギュラーを取ってからのこの浮き沈み。平静でいられるわけがなかった。