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最強ワセダ 2年連続の「荒ぶる」 

text by

村上晃一

村上晃一Koichi Murakami

PROFILE

posted2006/01/26 00:00

 1月8日正午、国立競技場のピッチ状態を確認に出てきた両指揮官が相対した。がっちりと握手がかわされる。互いの表情はこの日の空のように晴れ晴れとしていた。

 「春さん、終わったらゆっくり話そうよ」

 「そうだな」

 5年連続の決勝対決である。戦績は2勝2敗。しかし、今季に限っての下馬評は早稲田が圧倒的有利である。順調な仕上がりで決戦を迎えた清宮監督の口も滑らかだった。

 「普通は決勝まで来れば満身創痍。今年はみんなピチピチしている。5年間で最高のコンディション。すがすがしいラストゲームを見せられると思います」

 9年連続の決勝進出を果たした関東学院・春口監督は言った。

 「相手は史上最強と言われるチーム。だけど逃げ回りはしない。臆せず向かっていくよ」

 午後2時12分、キックオフ。

 序盤は緊張感からか互いにイージーミスが連鎖した。9分、10分と、早稲田ボールのラインアウトを、関東学院が奪い取る。

 「サインミスです。新しいのを使ったので」(HO青木)

 早稲田FB五郎丸の先制PGはあったが、予想以上に関東学院FWは健闘していた。

 しかし24分、勝敗を分けるプレーが生まれた。関東学院が早稲田陣深く攻め込んでマイボール・ラインアウトを得る。ここで関東学院がスコアできれば、試合は最後までもつれただろう。しかし、そうはいかなかった。関東学院がボールを確保して、右に左にボールを動かす。左タッチライン際でFL阪元が乱れた体勢でパスを受けた瞬間、早稲田WTB菅野が激しくタックルし、阪元の身体が浮き上がった。すかさず124kgの巨漢PR畠山がボールをもぎとる。SH矢富は左にいた五郎丸にパス、五郎丸はCTB池上にロングパスを送る。池上からパスを受けた今村が相手を一人かわして、池上に戻し、最後にWTB首藤にボールが渡った。

 ハーフウェイライン上で関東学院の大黒柱FB有賀が立ちはだかる。

 「絶対に内側に抜いてやろうと思いました」

 首藤は、外側のスペースを押さえるように立つ有賀をカットインで抜き去ると、50m5秒8の快足でトライまで駆け抜けた。

 「首藤がまだ力を出していない。そろそろ爆発してくれるでしょう」。清宮監督の予言はことごとく当たる。スコアは10-0。

 29分、早稲田SO曽我部のドロップゴールで13-0。34分、ワイドにボールを振り回し、曽我部が「奇跡です」と自ら驚く5人抜きで右コーナーに飛び込む。関東学院の防御が内側を分厚くするシステムだからこその素速いワイド展開。20-0として勝敗はほぼ決した。

 後半に入ると早稲田はさらに勢いに乗った。LO内橋、後藤の出色の働きもあってタックル後のボール争奪局面(通称=ブレイクダウン)を制圧し、ターンオーバーを連発。前田、青木、畠山のフロントローが自信を持ってスクラムトライを狙うなど、今季の看板であるFWが力強さを見せつけた。

 現代ラグビーでは、ブレイクダウンが勝敗を分ける鍵だと言われる。攻撃側は自分たちのリズムで連続攻撃を仕掛けたいし、防御側は攻撃をスローダウンさせ、相手ボールを奪って逆襲を狙う。加えて、数の駆け引きもある。ブレイクダウンに人数をかけすぎたほうが次の攻防では不利になるのだ。

 WTB北川智規が1トライを返した関東学院だが、ブレイクダウンに人数をかけすぎ、防御への反応は遅れた。先陣を切って何度も突進したFL北川忠資は早稲田を称えた。

 「個々には負けていないのですが、早稲田は一人一人がやることを分かっている。意思統一が凄かった」

 好敵手に認められる「史上最強チーム」として、早稲田大学31年ぶりの連覇は記録に刻まれた。

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