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猛稽古で昇進を決めた新大関・日馬富士。 

text by

服部祐兒

服部祐兒Yuji Hattori

PROFILE

posted2008/12/18 00:00

 関脇の安馬が、一発で大関昇進を決めた。平成20年締めくくりの九州場所で、この一年、相撲ファンを裏切り続けた相撲界から久しぶりの吉報である。

 秋場所後の安馬の稽古は、質量ともに群を抜いていた。場所後の休みはわずか1週間。身体が随分大きくなったとはいえ、幕内最軽量の129kg。本場所中の疲れは他の力士以上のはずだが、休みなしの猛稽古を敢行した。充実した秋巡業を終え、福岡入りした後は連日約50番の申し合いもこなした。圧巻だったのは、場所直前の3日間、出稽古に来た横綱白鵬との鬼気迫る直接対決。勝敗では圧倒されたが、20番ほどで息が上がる横綱が土俵を降りても稽古を続けたのだ。その驚異的なスタミナには白鵬も舌を巻いた。

 万全の状態で臨んだ初日だったが、琴奨菊戦で立合のやり直しを4度命じられ、歯車が狂った。白星こそ拾ったが、安馬本来の低く鋭い踏み込みが見られず、3日目4日目と連敗。大関獲りの重圧に押しつぶされ、身体が全く動かない。限りなく赤に近い黄信号が点滅したが、ここから安馬の逆襲、快進撃が始まった。

 初日前日、太宰府天満宮での必勝祈願でも「大関は自分で獲りにいくもので、神様に頼るだけでは駄目」と言った安馬。土壇場で弱気の虫を封じたのは、神頼みではなく、稽古で培った揺るぎない自信に違いない。徐々に調子を取り戻し、破竹の7連勝で正念場の白鵬戦を迎えた。

 下から突き上げるように踏み込んで左差しにし、離れて取る作戦は崩れたが冷静さは失わず、右も差し込んで両差しに。間髪入れず右から下手投げを打ち、場所前に稽古をつけてくれた横綱に見事に恩返しを果たした。完全に勢いに乗った安馬は、千秋楽まで勝ち続け11連勝。横綱大関戦全勝で13勝を挙げ、3場所通算の勝ち星を35に積み重ねた。白鵬との優勝決定戦も大熱戦。最後はねじ伏せられ裏返しにされたが、力の差は急速に縮まった。初優勝との「両手に花」とはいかなかったが、文句なしの大関昇進。一昨年の暮れ、交通事故で亡くなった父が天国から見守る中、母と兄の目の前で昇進を決めた。力士冥利に尽きる15日間だったに違いない。

 大関昇進を機に、太陽をイメージした「日馬富士」に改名し、締め込みも銀色に変更。初場所の姿が今から待ち遠しい。

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