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復活した渋井陽子。しかし、勝負はこれから。 

text by

藤山健二

藤山健二Kenji Fujiyama

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posted2004/10/21 00:00

 女子マラソンの高橋尚子(スカイネットアジア航空)が'01年に作った2時間19分46秒の日本記録がついに破られた。破るとしたら高橋自身だろう、と思われていたこの記録を破ったのは、高橋ではなくアテネ五輪代表から漏れた渋井陽子(三井住友海上)だった。

 9月26日に行われたベルリンマラソンに出場した渋井は、3人のペースメーカーに引っ張られるようにして5kmを16分30秒前後のハイペースで突っ走った。20kmは1時間6分4秒で高橋の通過記録を7秒上回り、25kmで初めて高橋のスプリットより遅れたが、これまで苦手としていた後半の30km過ぎから再スパート。30kmから35kmまでの5kmを16分17秒の驚異的なペースで乗り切り、見事に高橋のタイムを5秒上回る2時間19分41秒の日本新記録をマークした。

 ゴール後の渋井は文字通りの“泣き笑い”となった。今年1月の大阪国際女子マラソンでは超スローペースの展開に調子を狂わせて後半失速。9位と惨敗して夢にまで見たアテネ五輪代表を逃した。しかも同僚の土佐礼子が3月の名古屋国際で最後の切符を手にし、「自分に裏切られた」(渋井)ショックで2カ月近くも練習できなかった。5月中旬からようやく中国・昆明で合宿を再開したもののなかなか調子は上がらず、やがて土佐と鈴木秀夫監督はアテネに移動し、たった一人での練習を余儀なくされた。結果的に初めて体験したこの一人ぼっちの合宿が自分自身と冷静に向き合う時間を与えた。悩み抜いた末に「いくら嘆いても失ったものは返ってこない。ならば前に進もう」とやる気を取り戻した渋井はベルリンで見事に結果を出した。

 渋井の走りは確かに素晴らしかった。だが、今の日本女子マラソン界のレベルからすればこの程度の走りはむしろ当たり前なのかもしれない。他の選手がベルリンマラソンに出場しても、それなりの数字を出しただろう。

 勝負を度外視してただ記録だけを追求する今回のようなレースで、ペースメーカーのつかない五輪や世界選手権を占うことはできない。アテネ五輪では世界記録保持者のラドクリフでさえ重圧に負けて途中棄権に追いこまれた。五輪や世界選手権、あるいはその選考レースでどういった走りをすることができるか。渋井の真価はそれで決まる。

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