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マラソンの女王、復活。そのたくましさと潔さ。 

text by

藤山健二

藤山健二Kenji Fujiyama

PROFILE

posted2005/05/12 00:00

 4年に一度の五輪は、あこがれの舞台を踏んだ選手たちに最大の喜びと深い失望感を与える。メダルを獲った選手はいつまでもその感激に酔いしれ、敗れた選手はどん底に突き落とされる。

 両者の差は、その後の人生を一変させるほどのインパクトを持つ。だが、もちろん人生はそこで終わりではない。特に敗れた選手にとっては、その敗北からどう立ち直るかが重要になってくる。

 女子マラソンの世界記録保持者ポーラ・ラドクリフ(英国)は昨夏のアテネ五輪で金メダル確実と見られていたが、結果はまさかの途中棄権。その衝撃は恐らく参加全選手の中でも随一だったと思うが、失意の女王は五輪3カ月後の昨年11月には早くもニューヨークマラソンに出場し、先月は思い出のロンドンマラソンに再挑戦した。10km手前から完全な独走態勢に入ったラドクリフは、34km付近で「おなかが痛くなった」ために突然立ち止まるアクシデントもあったが、頭を前後に振る独特のフォームで最後まで走りきり、自己3番目に当たる2時間17分42秒の好タイムでついに完全復活を果たした。

 アテネ五輪での敗因は、脚の故障で消炎剤を服用しすぎ、肝臓など内臓の機能が低下したためと後に分かった。確かにそれが最大の原因だったのだろうが、初めて体験した激しい駆け引きや真夏のマラソンによる極度の体力消耗、そして何より金メダルへの重圧がラドクリフを押しつぶしたことは容易に想像がつく。

 もしこれが日本の選手だったら、こうもすぐに立ち直れただろうか。アテネでメダルを逃した坂本直子、土佐礼子はもちろん、金メダルを手にした野口みずきでさえ、今冬のレースには出場しなかった。更に言えば、アテネ五輪の代表選考会で失敗した高橋尚子は2年近くたった今でもフルマラソンを走れないでいる。

 故障など選手個々の事情もあるので一概には言えないが、つらい過去を再び走ることで拭い去ったラドクリフと、休養してリフレッシュすることで忘れようとしている日本選手とでは、その考え方に差があるのは事実だ。

 マラソンの女王もすでに31歳。これからは年齢との戦いになるが、常に前を向いて走り続ける姿は尊い。北京で金メダルを獲らせてやりたいと思っているのは、私だけではないだろう。

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