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短距離と高地トレ。為末大が挑む新領域。 

text by

藤山健二

藤山健二Kenji Fujiyama

PROFILE

posted2005/05/26 00:00

 心肺機能の強化を目的として行われる高地トレーニングは、今やマラソン界ではすっかりお馴染みだが、その効果は中長距離選手に限定されるというのがこれまでの定説だった。しかし、その常識を覆そうとしている選手がいる。400m障害の為末大(APF)だ。47秒89の日本記録を持つ為末は、今年2月15日から約1カ月間、米アリゾナ州フラッグスタッフで高地トレに挑戦した。今季初戦となった5月7日の国際GP大阪大会ではラスト20mで失速して4位に終わったが、今後どんな成果がもたらされるのか、陸上界全体が注目している。

 '01年の世界選手権で銅メダルを獲得した為末は、アテネ五輪でも表彰台が期待されていたが、あえなく準決勝で敗退した。次の北京五輪で雪辱を期すためには今よりもっと厳しいトレーニングを積まなくてはならないが「アテネ前の練習は質量ともに極限に近く、これ以上ハードな練習をすれば体が壊れてしまう」(為末)恐れがあった。そこで浮上したのが高地トレだった。空気の薄い高地で練習すれば、量は少なくても平地以上の負荷をかけることができる。言いかえれば故障やケガの危険性を最小限に抑えながら、よりハードな練習が可能になるわけだ。心肺機能を高めることを目的とする長距離とはまったく違う発想だが、狙いそのものは十分に理解できる。

 フラッグスタッフは、同じ事務所に所属している水泳の北島康介の紹介で決めた。標高2100mでの生活とは「朝起きただけで脈拍が100を超えている」状態で、200mも走ればたちまち息が上がる。そんな環境下で為末は効率よく練習をこなし、3月中旬に帰国した。

 本来なら国内初戦となった国際GP大阪大会で成果が出るはずだったが、結果は惨敗に終わった。だが、これには思い当たる理由がある。長距離の選手は高地に入る時期と降りる時期を綿密に計算し、レース当日にもっとも効果が出るように調整している。だが、短距離にはまだその種のデータがなく、ピークをレース当日に合わせることができなかったのではないか。そもそも高地トレは回数を重ねることで体が順応していくもので、1回では効果が薄い。大事なことは失敗を恐れないことだ。後に続く選手たちのためにも、ぜひ為末には成功してほしい。

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