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<本格派誕生秘話> 澤村拓一 「不器用さが生んだ剛速球」 

text by

高川武将

高川武将Takeyuki Takagawa

PROFILE

photograph byYusuke Nishimura

posted2011/04/15 06:00

<本格派誕生秘話> 澤村拓一 「不器用さが生んだ剛速球」<Number Web> photograph by Yusuke Nishimura
頑固なまでのストレートへの拘り。自らに課し続けた過剰な負荷。
巨人軍への熱き憧憬。あまりに真っ直ぐな23歳の若武者はいかにして
生まれたのか。 2人の恩師、良き好敵手、そして本人の言葉から実像に
迫った。

 ジャイアンツ球場にある室内ブルペンの片隅。暗幕を張った即席スタジオでの写真撮影を終えると、スパイクを履き替えながら、澤村拓一が近くにいた広報にぼそっと呟く。

「一回も……笑ってないんですけど……」

 いくつかポートレイトを撮らせてもらったのだが、笑顔を作らなくてよかったのか気にかけていたのだった。「いいんだよ」と言うと、うん、とうなずく。ただ、そう言う澤村の顔も、ちっとも笑ってはいなかった。

 澤村はグラウンドでは滅多に笑わない。いつもニコニコしている同僚の坂本勇人や、斎藤佑樹(日本ハム)とは対照的だ。直後に行なわれたインタビュー。開幕先発ローテーション入りを確実にしたルーキーは、無愛想にも見える真面目な顔で、のっけから過激な言葉を吐いた。

「先発ピッチャーである以上、その日の調子の良し悪しに左右されることはないですね。その場、その場で勝負するしかない。勝負事は、勝つか負けるか。極端な話、やるかやられるかの世界なわけじゃないですか」

 殺るか、殺られるか。かつて、プロ野球選手から聞いたことがあっただろうか……。

「逃げ道を作りたくないんです。1点くらい取られてもいいとか、自分に都合のいい言い訳を作ってマウンドに上がりたくない。本当に一人ひとり、打ち取ることしか考えていません。技術云々よりも、まずは気持ちで負けちゃいけない。向かっていきたいですね」

 こちらの目を真っ直ぐ見つめ、端然と話す姿は、果し合いに赴く野武士のようだった。

スピードスケートか競輪の選手と見まがうほどの尻と太腿。

 日本球界に久しぶりに現れた剛球投手である。大学生最速の157kmをマークしたのは、昨年春の東都大学リーグ戦でのことだ。高速スライダーやツーシームが全盛となり、手元の微妙な変化球で勝負する投手が大半を占めるようになった時代に、ズドンという重みのあるストレートは異質とさえいえる。

 東京ドーム初見参となった3月2日の西武戦では、投球練習の1球目で球場全体がどよめいた。投球内容は意外にも繊細で、丁寧に制球した変化球を効果的に交えて、4回を無失点。だが圧巻は、やはりストレートだった。勝負を挑んだ中島裕之の第1打席、全球ストレートで0-3から見逃し三振に切って取ったのだ。見ている者の心をときめかせる、そんな威力と魅力がある。

 スケールの大きさと野武士のような佇まい。澤村はどこか、時代と逆行して生きてきたように見える。

 西武戦後のベンチ裏通路。流行のストリートファッションに身を包んだスマートな選手が多い中、澤村だけ、何かが違った。彼とて、ジーンズを穿いてはいるのだが……脚が太すぎるのだ。ウェイトトレーニングで鍛え上げた、はち切れんばかりの尻と太腿は、スピードスケートか、競輪の選手と見まがうほどだ。スクワットでは240kgの重量を10回も持ち挙げる。巨人投手陣の最高重量が140kgだから、いかに並外れているかがわかる。

 なぜ、彼は、過剰なまでに肉体を鍛え上げねばならなかったのか。ユニホームに隠されていたこの太い脚こそ、高校ではエース失格の烙印を押された澤村が、即戦力で巨人に1位指名されるまでになった足跡を如実に物語っているはずだ。

【次ページ】 人一倍練習に励んだが、大成しなかった高校時代。

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