バッド・シュルバーグが逝った。地元ニューヨークのメディアはこぞってスポーツ面で追悼記事を掲載したが、わが国での扱いは小さなものだった。「AP通信によると(8月)5日、老衰のため死去、95歳。ハリウッドで作家・脚本家修業をし、マーロン・ブランド氏の出世作ともなったエリア・カザン監督の『波止場』('54年)でアカデミー・オリジナル脚本賞を受賞した」と、共同通信から配信された簡潔な追悼記事が載るだけだった。
一生涯ボクシングを愛したアカデミー賞脚本家。
肩書きは脚本家とあったが、もとは小説家であり、20代で『何がサミーを走らせるのか』('41年)を発表して世に出た。近年、映画や文学の世界では過去の人扱いされていたが、ボクシングでは“生涯現役”だった。6歳で父親に連れられて会場に足を運んで以来、筋金入りのファン。映画を離れた後はもっぱらジャーナリスト、評論家として亡くなる直前まで新聞・雑誌に寄稿を続けた。
作品でも好んでボクシングを取り上げた。『波止場』でブランド演じる主人公は元ボクサーの港湾労働者だったし、プリモ・カルネラをモデルに巨人拳闘家の悲劇を描いた小説『殴られる男』もある。
世間のボクシング批判にペンで立ち向かった。
シュルバーグは一貫してボクシング、ボクサーの擁護者だった。ベトナム戦争時にアリが徴兵を拒否して王座剥奪、ライセンスも取り上げられると、「アリは防衛戦を行なう権利がある」と訴えた。'71年のアリ対フレージャー第1戦を取材した『フォーク・ヒーロー モハメド・アリ』(原題「Loser And Still Champion」)はスケールの大きなボクシング評論。アリを描きつつ、滔々とボクシングと文明論を展開した。世界ヘビー級の偉大な王者は多かれ少なかれその時代の精神を反映するというのが持論で「国民が自分らにふさわしい政治を持つように、歴史がその時代を象徴するために必要なヘビー級チャンピオンを生み出すものである」(宮川毅訳)と書く。またボクシング批判にはこう反論した。「(ボクシングは)頽廃させるものではなく、むしろ我々を高めてくれるもの、野蛮なものというよりむしろ勇気を与えてくれるものと考える」と。
'03年には、ニューヨークのボクシング殿堂にジャーナリスト部門で殿堂入りを果たした。本人には『波止場』の脚本でオスカーを受けたときと同じか、それ以上の名誉だったに違いない。
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