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引退危機から鮮やかに復活した朝青龍。 

text by

服部祐兒

服部祐兒Yuji Hattori

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photograph byAFLO

posted2009/02/12 00:00

引退危機から鮮やかに復活した朝青龍。<Number Web> photograph by AFLO

 引退の崖っぷちに立たされた横綱朝青龍が劇的に甦った。3場所連続休場、再起を期すも場所直前の稽古総見で白鵬に惨敗。下位力士にも精彩を欠く相撲に、横審委員や武蔵川理事長からは休場勧告も出されていた。

 前半戦は冷や冷やの連続だった。上体が起き、軽さが目立つ。勝ちを拾う相撲も数番あった。しかし「朝青龍らしさ」は全開だった。鋭い眼光で相手を睨みつける仕切り。稀勢の里戦での、勝負がついた後の強烈なダメ押しビンタ2発。嘉風戦では張り手を浴びた瞬間、怒りの導火線が即点火した。本来、番付下位が上位に張り手を見舞うのは失礼とされているが、嘉風には対抗できる唯一の手段。朝青龍は「顔じゃない」とばかりに反撃したが、首投げがすっぽ抜けて絶体絶命の体勢。無類の反射神経で体を開き、起死回生の突き落としで逆転したが、土俵を飛び出した嘉風に背後からダメを押し、怒りの表情で睨みつけた。控えに戻っても睨み続ける光景は、殺気漂うものだった。常々指摘されていた横綱の品格を無視した行動。翌日、稀勢の里からさらに激しい張り手を食らった白鵬が、大人の冷静な対応をしたのとは雲泥の差だった。

 全勝ターン後の後半戦は、安定感抜群だった。全盛時の厳しさ、激しさが戻って隙無し。「らしさ」も相変わらずで、琴欧洲戦での(不発に終わった)後頭部へのラリアット張りのダメ押しは圧巻。ヒール横綱の連勝は14に伸びた。

 千秋楽、ついに星1つの差で追う白鵬との直接対決。国技館の興奮は最高潮に達した。全勝を賭けての本割りは、右上手を狙ったが両差しを許し完敗。支度部屋に戻った朝青龍は、わずかな時間に軌道修正を強いられた。ぶちかまし、鉄砲、差し身の稽古と動き続ける朝青龍に対し、悠然と構える白鵬。白鵬絶対有利な状況での優勝決定戦。この土壇場で朝青龍が究極の集中力を発揮した。鋭い当たりから左下手を深く差し、右手で白鵬の左手を牽制しつつ前褌を取り頭も付けると、間髪入れず寄り立てて完勝。ケンカ相撲で突っ走ってきた朝青龍が、最後に教科書通りの完璧な相撲を披露した。

 誰も予期しなかった奇跡の復活優勝。あふれる涙を見ると、この結果に最も驚いているのは朝青龍本人ではないかと思えた。

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