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長谷川穂積をアメリカに駆り立てるもの。 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

PROFILE

posted2008/08/07 00:00

 ボクサーにとって世界チャンピオン獲得は容易ではないが、さらに困難なのはチャンピオンベルトを保持し続けることである。

 王座獲得に匹敵する新たな目標をいかに設定するか。他団体王者との統一戦? 興行的困難が多く現実的ではない。日本人世界王者の防衛記録更新? これは具志堅用高のV13が越えがたい壁としてそびえ立ち、簡単には目標としにくい。

 「本場アメリカのリングで試合がしたい」。ことあるごとにこう語ってきたのは、長谷川穂積である。'05年4月、WBC世界バンタム級王者ウィラポンを攻略して以来、6度の防衛戦をこなしてきた。派手さこそないが、磨き抜かれた技術を駆使し、今や通のファンや同じボクサー、関係者の間で抜群に評価が高い。

 過去に日本人世界王者が海外で勝ったのは、渡辺二郎の一例しかない('85年、韓国)。再戦契約で縛られてでもいなければ、リスクの高い海外防衛戦を進んでやる日本人王者はいない。では、長谷川が「本場で戦いたい」と言うのはなぜか。

 アメリカで活躍するアジア選手といえば、マニー・パッキアオという現在進行形の大成功例がある。“出稼ぎ大国”フィリピンから渡米し、アジア選手史上初の4階級世界王座獲得。1試合数百万ドルを稼ぐスーパースターに出世した。

 しかし長谷川の望みは、パッキアオの軌跡を辿ることではなく、もっと私的なものである。「向こうの試合を観戦して驚いた。下(客席)から見て、戦う選手たちがものすごく輝いて見えたから。もし自分がリングの上に立ったら──」。これが、長谷川を駆り立てる一番の動機である。

 長谷川のプロモーターでもある帝拳ジムの本田明彦氏は過去にラスベガスで葛西裕一の世界挑戦や辰吉丈一郎の無冠戦を興行したことがあるが、この時は観客席を埋めるのに苦労した。スーパーファイトのアンダーカードに組み込んでもらうほうが簡単だが、これだと前座扱いである。ラスベガスの観客はメインが始まる直前までギャンブルに興じているから、ガラガラの会場で試合をしなくてはならない。しかし、長谷川本人はそれでもいいからやりたいという。「金のためじゃない。夢を持ち続けているかぎりモチベーションは下がらないと思うんで」。長谷川の王座はまだまだ安泰のように思える。

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