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金メダルの先を求めて
国枝慎吾が選んだ道。 

text by

秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

PROFILE

photograph byPHOTO KISHIMOTO

posted2009/05/12 06:00

金メダルの先を求めて国枝慎吾が選んだ道。<Number Web> photograph by PHOTO KISHIMOTO

 車いすテニスの国枝慎吾がプロ転向を表明した。職員として勤務していた麗澤大学を昨年末に退職。マネジメント会社のIMGと契約し、テニス一本で生きる道を選んだのだ。

 今後はトーナメントの賞金やスポンサーとの契約金などで遠征費用や生活費を賄うことになる。車いすテニスツアーでは世界各国で年間150もの大会が開かれているが、そこで得られる賞金は決して大きな額ではない。1月に行われたグランドスラムの全豪オープンでも、賞金総額は6万米ドル(約600万円)。健常者の男女シングルス優勝賞金は日本円にして1億3400万円ほどだから、比べるのも気の毒なくらいの額だ。

 国枝も「賞金で生活していくには、全部の大会で優勝するくらいでないと」と苦笑する。賞金とは別にスポンサーからの契約金が見込めるが、どちらにしても安定した収入は保証されない。国枝自身、「テニス一本で生活するのは厳しい道と覚悟している」と話している。それでも彼は、大学職員という安定を捨て、実力勝負の世界に飛び込んだのだ。

プロとしてやり遂げられたら、子供に夢を与えられる……。

 プロ転向を決めた大きな理由が、車いすテニスの普及だという。

「私がプロとしてやり遂げられたら、障害者スポーツに携わる多くの方々に夢を与えられる。障害を持っている子供たちに『車いすテニスプレーヤーになりたい』と夢を持ってもらえる」

 と語る国枝。車いすテニスの第一人者としての自負、責任感がそう言わせるのだろう。また、こんな言葉にもプロの自覚が感じられる。

「車いすテニスって面白いと感じてもらいたい。だから、勝つだけでなく、魅せながら勝つテニスをしていきたい」

 昨年までの国枝にとって、唯一最大の目標が北京パラリンピックの金メダルだった。だから、金メダルを手にしたあとの国枝が興味深くもあり、実は少し心配でもあった。「考えに考えた」末に彼が選んだのは、プロ転向という困難な道。第一人者としての責任を引き受け、わざわざハードルを高くしたようにも見える。だが、そうすることで彼は新たなモチベーションをかき立てたのだろう。一度頂点を極めても、次の高みへ、また次の高みへと自分を駆り立てるのは、彼が本物のアスリートだからだ。

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