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アスレチックス選手が住む“トキワ荘”。 

text by

津川晋一

津川晋一Shinichi Tsugawa

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photograph byYukihito Taguchi

posted2007/05/31 00:00

アスレチックス選手が住む“トキワ荘”。<Number Web> photograph by Yukihito Taguchi

 むかし、豊島区にトキワ荘という名のアパートがあった。最初に入居したのは、かの手塚治虫。石ノ森章太郎や赤塚不二夫、藤子不二雄など、多くの漫画家が青春時代を過ごし、互いに刺激を受けあった場所だ。手にするものをペンからボールに置き換えれば、カリフォルニア州ダンビルにある一軒家は、もしかしたらメジャー版“トキワ荘”と言っていいかも知れない。

 代々の住人はオークランド・アスレチックスの選手たち。家賃は一人1000ドル(約12万円)程度で、メジャーリーガーの家としてはかなり質素だ。今年の住人はニック・スウィシャー選手とチャド・ゴダーン投手。「スランプ中でも良き話し相手になるし、野球以外のバカ話もするからリラックスできる。もし一人暮らしだったら煮詰まってるはずだよ」。そう3歳年下のゴダーンが真面目に語れば、先輩スウィシャーは悪戯っぽく笑う。「コイツは料理が上手で、オレは食べるのが大好き。二人はいい関係だろ?」

 婚約して「私たちの空間が必要よ」と恋人に諭された守護神ヒューストン・ストリートと、エース格のジョー・ブラントンは、さすがに昨年で退去した。だが、更に過去にさかのぼってみてもマーク・マルダー(現カージナルス)、エリック・チャべス、マーク・エリスら、錚々たる面々を輩出している。

 ストリートが振り返って言う。「球場で顔を合わせるだけなら野球は“お仕事”だけど、ひとつ屋根の下で暮らすと結束が生まれる。彼らとは家族みたいなもんだから、赤の他人よりもプレーで助けたくなるのは当然だよ」。もちろん一人一部屋あるからプライバシーは十分に保たれる。ギターを弾いたり、映画を観たり、プールに入ったり。それぞれが思い思いの生活を送っているという。

 決して財政的には恵まれていないアスレチックス。スター選手が他球団へ移籍して行っても、なお次々と若手が育ち、毎年のようにプレーオフに進出する秘訣は、敏腕GMビリー・ビーンのマネーボール理論がすべてではない。

 5月11日、チームはスウィシャーとの契約を5年延長したと発表した。ちなみにAP通信によると契約金は総額2675万ドル(約32億円)。今のところスウィシャーには、家を出る予定はない。

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