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『PRIDE.28』ミルコとシウバが負けなかった理由。 

text by

茂田浩司

茂田浩司Koji Shigeta

PROFILE

photograph bySusumu Nagao

posted2004/11/18 00:00

 殴る。蹴る。脳を揺らす。関節を逆方向に捻る。頚動脈を圧迫して意識を奪う。いかに平常心を保ちながら、こうした「非日常的行為」を行えるか。格闘技は、究極のところ心と心の勝負になる。特にトップレベル同士の戦いは技術や体力に大差がない分、心が勝敗を決する。「PRIDE28」注目の2試合も例外ではなかった。

 ミルコ・クロコップvs.ジョシュ・バーネットはわずか46秒、ジョシュの左肩脱臼でミルコが勝利した。開始早々にジョシュがテイクダウンを奪い、優勢に試合を進めながらの「アクシデントによる決着」とされているが、二人の心の有りようを考えるとアクシデントでは片付けられない、ある種の必然が見えてくる。

 勝てば「タイトル次期挑戦者」と認定される試合。GP開幕戦の敗北から3連勝で巻き返したミルコが、絶対勝つと入れ込んでも不思議ではなかったが、リング上のミルコはノゲイラ戦のような悲壮感を漂わせることもなく、淡々と試合に入った。昨年のPRIDE本格参戦以来、幾つもの「落とせない試合」を経験してきただけに、この試合を特別なものとは捉えなかったのだろう。左ハイをかわされてテイクダウンされた時も冷静に対処していた。

 気負ったのはむしろジョシュだ。試合の翌日に会った彼はこう呟いた。

 「多くのプロレスファンを失望させてしまった。すまないと思ってる」

 序盤のラッシュは「ミルコ対策」の作戦だった。しかし、本来彼は相手の出方を見て動くタイプ。先にパンチで仕掛けた時点で「普段通りの試合」ではなかった。加えて、新日本プロレス所属後は体格やキャリアに明確な差のある相手との試合ばかりで、力が拮抗した強敵との戦いは1年半ぶりになる。重圧、気負い、いつも以上のハードトレーニングと、不慣れな戦法。様々な「無理」が心身への負担となり、脱臼という結末を招いたように思えてならない。

 メインのPRIDEミドル級タイトルマッチには「再戦」というシチュエーションが色濃く反映した。

 昨年11月の初対決に勝利したシウバは何もかも前回と同じでいい。普段通りにトレーニングをし、普段通りに試合を運べば勝利は付いてくる。

 対照的に、前回敗れたジャクソンは何かを変えなくてはならない……。試合前、信仰に目覚め「性格が変わった」とのニュースが伝わってきた。

 戦い方も変えた。普段の野放図な戦法を封印。欠点の首相撲を練習で克服し、シウバのパンチ連打はガードで凌いで右ストレートを狙った。これが1R終盤にヒット。倒れたシウバにハーフガードからパウンド連打を浴びせた。シウバはラウンド終了のゴングに救われたが、場内はどよめいた。遂に王者交代か、と。

 だが、インターバル中、やられたはずのシウバが落ち着き払った表情で静かに息を整えていたのに対し、慣れない戦法で疲弊したジャクソンはセコンドのアイシングを受けながら肩で息をしていた。余力を残していたシウバは2R、ほとんど無抵抗のジャクソンを完璧に叩きのめした。フィニッシュは前回と同じ首相撲からのヒザ連打。自分に挑戦してきたことを後悔させるがごとく、王者は力の差をまざまざと見せ付けた。

 試合後、シウバは言った。

 「今、全身に痛みがあるが、それはどの試合でも同じだ。殴りもするが殴られもするのはプロのファイターなら普通のことだよ」

 4年半無敗を守るシウバは今回も「普段通り」ハードな試合をしたに過ぎなかった。彼の心を崩せる者は今、どこにも見当たらない。

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