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レンズが捉えた神聖な空間。 

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posted2004/12/02 00:00

レンズが捉えた神聖な空間。<Number Web>

 控え室とは格闘家にとって神聖な場である。

 プロの格闘家はトレーニングで肉体を鍛え上げるだけでなく、食事・睡眠をはじめ、あらゆる生活の営みに配慮する日々を送る。リングにあがる直前の控え室は、最後の、そして最も大切な調整・集中の場。それゆえ、容易にはメディアに公開されない。

 そんな神聖な控え室、非公開練習にこだわった稀有な写真集が上梓された。被写体は格闘家・小川直也。写しだされているのは、「ハッスル・ポーズ」を披露する演出された小川直也ではなく、プロのアスリートとしてのリアルな小川直也だ。

 「控え室で撮影することは僕から言い出したわけじゃなくて、'01年に小川さんから声をかけてもらったんです。最初は『なに冗談を言ってるんだろ?』って思ったんで、会場に足を運ばなかった。そしたら次に会ったときに『お前、何で来なかったんだ!?』って怒られて。そのとき、小川さんが本気だったと知ってビックリしたんです」

 カメラマン・森鷹博はそう述懐する。

 森が小川を初めて撮影したのは'99年春。プロレス専門誌から依頼された仕事だった。

 「僕は被写体とコミュニケーションを取りながら撮影するタイプなんですけど、小川さんには泣かされました。だって声をかけてもほとんど無視するんですよ。『おはようございます!』と声をかけても、『ん』という反応しかかえってこない(涙)」

 この撮影をきっかけに森は専門誌から月に1度は小川の撮影を依頼されるようになる。だが、それは森には苦痛で仕方がなく、撮影当日が近づくと「ウーン、行きたくない、行きたくない」と自宅でこぼした。理由はいうまでもなく、小川との「コミュニケーション不全」。そんな日々を2年近く経て、小川は森を控え室に招き入れることを決めた。

 「何で僕を控え室に入れてくれたかは、今でもよくわからないところがあるんです。ただ小川さんからは『お前も上のステージに行かなきゃいけないだろ?』と言われました。それからは長野、金沢、松山と地方巡業を自腹を切って追いかける日々。1人で入った道後温泉は寂しかったなあ(笑)。『金にもならないことをいつまでやってるんだ?』と揶揄されたこともありました。でも、ちっとも気になりませんでしたね。いつか作品を発表できるときが来るという予感がありましたし、仮にこのまま地下に潜ってしまってもいいやというある種の開き直りもありました」

 森は小川の眼が好きだという。喜び、無邪気、悲しみ、放心、集中、気合……。普段は決して口数の多い男ではない分、眼がその心情を雄弁に物語る。

 共に駆け抜けた6年近い日々の中で、見たこともない眼を小川がみせたのがPRIDE・GPヘビー級準決勝のヒョードル戦だった。

 「ヒョードルに開始54秒で敗れた8月15日は僕にとって忘れられない1日です。いいところなく負けたことは切なかったけど、ファンの人が温かく一緒に『ハッスル・ポーズ』をしてくれたことは嬉しかった。

 小川さんには良くも悪くも時代がつきまとっていると思うんです。負けて叩かれたオリンピックもそう。負けてもみんなが喜んでくれたPRIDEもそう。でも、小川さんのスタンスはどちらも変わっていない。僕はカメラを通じて、時代が小川さんにどんな表情を見せていくのかをこれからも見つめていきたいと思います」

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