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4年ぶりの優勝へ向け、ヤクルト投手陣に頼れる男が戻ってくる。 

text by

乙武洋匡

乙武洋匡Hirotada Ototake

PROFILE

photograph byTamon Matsuzono

posted2005/03/31 00:00

 2位、3位、2位。'01年に日本一に輝いて以降、あと一歩のところで優勝を逃し続けてきたヤクルトに、“あと一歩”を埋める最後のピースが揃おうとしている。最多勝の実績を持つ藤井秀悟が、復活のマウンドに向かう。

 一昨年、開幕直後に「左ヒジ内側側副靭帯断裂」との診断を下された。高校、大学時代にも同じ箇所を痛めているが、2度とも周辺の筋肉を鍛えることで手術を回避してきた。

 3度目の故障。藤井は熟考を重ねた末、メスを入れることを選択した。

 「手術をすることで、自分の限界が伸びるんじゃないかと思ったから」

 2年連続二ケタ勝利。リーグを代表する投手へと成長しつつあったが、同時に停滞感も覚えていたという。

 「そこそこはやれる。でも、これ以上は頭打ちなんじゃないか、と」

 高校時代から抱えてきたヒジへの不安を取り除くことで、みずからの限界点を大きく突破していくイメージを頭に描いていた。

 「復帰まで2年はかかる」とも言われていたが、手術からわずか1年後の昨年5月には、はやくも一軍復帰。ローテーションの一角として登板を重ねていた。しかし、8月の巨人戦で帰塁した際に左ヒザを負傷。ふたたび戦列を離れてしまう。

 故障明け。本来ならば過度の期待をかけられる投手ではない。だが、3年連続二ケタ勝利の石川雅規が左足疲労骨折、昨年10勝を挙げてセ・リーグ新人王に輝いた川島亮が右肩痛というチーム事情もあり、藤井には先発陣の柱として期待がかかる。

 「取材を受けても、開幕投手について聞かれたりする。もちろん悪い気はしないけど、自分がいま置かれている現状とのギャップは大きい気がするんだよね」

 復帰を果たした昨年は登板直後の疲労も激しく、ヒジもろくに曲げられない状態だった。いまは違和感もなく、力いっぱい腕を振りぬくことができる。

 とはいえ、現時点で「任せてください」と豪語できるだけの自信はない。自分の球威がどれだけ戻っているのか。変化球のキレは――。

 かつての最多勝投手。怪我をする前に積み上げた実績が、自身が「ある程度の」レベルで満足することを許さないのだろう。本人も、手応えと不安のはざまで開幕を迎えようとしている。

 術後、厳しいリハビリに耐え忍んだ。だが、本当につらかったのは実戦復帰を果たしてからだったという。

 「自分でも情けなくなるほど」のボールしか投げられず、試合でも打撃投手のように打ち込まれた。「オレ、こんなピッチャーのまま終わっちゃうのかな……」。不安もよぎった。

 しかし、そこからつかんだ境地もある。それまで格好悪い自分を露呈することを極度に嫌っていた藤井だが、昨年の経験を境に「ダメな自分を直視する覚悟」が芽生えた。

 「打たれたから、もういいやと開き直るんじゃない。打たれたらそれを踏まえて、また前に進んでいく」

 謙虚な言葉ばかりが並ぶ。いつもの憎々しいまでに自信に満ちたセリフが聞かれないのは、少し淋しい。

 「勝ってるときは、『何でも聞いてください。僕の理論、どんどん話しますよ』となる。でもね、2年間もブランクあると、もう自信なんか持って答えられないよ」

 口ではそう言いながらも、ひそかに最多勝のタイトル奪回を狙っていたりするのでは――。

 「うーん、最多勝かあ。狙える位置にはいたいと思うけど……まあカムバック賞止まりかな」

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