#1112
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「“9.26”は敗者復活の物語だった」近鉄バファローズ、2001年優勝を呼び込んだ中村紀洋の繊細さ《北川博敏が語る「奇跡の一本です」の真意とは?》
2025/01/19
リーグ最下位4.98のチーム防御率ながら圧倒的な打力で12年ぶりに頂点に立った'01年。点を取られても取り返す攻撃に隠された主軸・中村の鋭い洞察力。強力打線の一角を担った北川、吉岡、川口が、奇跡の優勝劇の裏側を明かす。(原題:2001[いてまえ打線の深層]大阪近鉄バファローズ「奇跡を呼び込んだ中村紀洋の繊細さ」)
自分のひと振りが「偉業」だったのだと北川博敏が気づいたのは何日も後のことである。2001年の秋、日本シリーズで白木のバットを使おうとしていると、チームメートからこんな声が飛んできた。
「アホか、お前。もったいないから使うな。折れたらどうすんの」
北川のバットに思いもよらない箔がついたのは'01年9月26日だ。前年まで2年連続最下位の大阪近鉄バファローズが、ついにマジック1でオリックス戦を迎えた。3点ビハインドの9回無死満塁。北川が振りぬいた白球は大阪ドームの左中間席に吸い込まれていった。
代打逆転サヨナラ満塁優勝決定弾――。
メディアがこぞって「奇跡」と形容した、プロ野球唯一のホームランを打ったのだ。
あれから24年。北川は頷いて言う。
「僕も本当に奇跡の一本だと思います。代打であの場面が巡ってくるのは、すべてが整わないとできません。でも、僕だけの奇跡ではなく、使ってくれた梨田昌孝監督、最初に打った吉岡雄二さん、川口憲史、四球を選んだ益田大介もそうです。奇跡を生むための準備をみんなが整えてくれました」
吉岡が中村紀洋から耳打ちされたのはその時だった
西武、ダイエーとの激闘を制してパ・リーグ史上初となる最下位翌年の優勝に導いた。そして、その伝説のアーチは敗北を重ねる「いてまえ打線」の意地から生まれた。
吉岡は負い目を感じていた。オリックスとの大一番は重苦しい雰囲気のまま、敗色が濃くなり、ついにファンの怒声が響いた。
「今日、決まらんやないか!!」
劣勢の原因をつくったのが吉岡だった。
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photograph by SANKEI SHIMBUN