結果以上の価値を感じさせる、胸を打つ優勝劇だった。バドミントンの日本一を決める全日本総合選手権が昨年12月下旬に東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで行なわれ、男子シングルスの元世界ランク1位、桃田賢斗(NTT東日本)が2年ぶり5度目の優勝を飾った。
ワールドツアーで1、2回戦負けが続くなど不振を極めた昨年は、この大会が年間で手にした初タイトル。決勝で西本拳太に快勝すると、ガッツポーズで拍手に応えた。
優勝会見では「苦しい中、自分で考えて、考えて、考え抜いての今回の優勝。今までと比べものにならないぐらい嬉しい」という言葉が印象的だった。背景にあるのは'20年1月に遠征先のマレーシアで見舞われた交通事故だ。眼窩底骨折などの重傷を負った桃田は、実戦不足のまま出場した'21年東京五輪で1次リーグ敗退。コロナ禍が明けて大会数がほぼ元に戻った昨年は事故の影響がさらに顕著に表れ、勝利から遠ざかった。
東京で開催された8月の世界選手権で2回戦負け。翌週のジャパンオープンは1回戦で姿を消し、そのタイミングで気持ちを固めた。
「事故で感覚や経験はすべてゼロになった。昔の自分を追い求めるのはもうやめた。プライドも捨てた」
その後のワールドツアー欠場を決め、国内で土台作りから再スタート。厳しい反復メニューを自分に課し、「1時間ノックでは本当に倒れるかと思った」という。
ターゲットとしたのは世界トップに水をあけられる要因となったハイスピードスマッシュの返球。考え抜いた末にたどり着いたのは、スピード対応そのものよりも、打たれる1本前のショットの改善だ。
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています