#1053
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[重量級大国に与えた衝撃]英国はモンスターをどう報じたのか?

2022/06/17
英国デビューを「ホーム感があった」と語った26歳当時。翌日2時間だけロンドンを巡り帰国の途に
井上を真に世界のスターダムに押し上げたWBSSの舞台。無敗王者激突の準決勝は、モンスターの英国初お目見えとなった。専門誌記者が圧倒的KO劇と階級を超えたインパクトを語った。

 2019年5月18日、私はグラスゴーのハイドロ・アリーナにいた。世界最古のボクシング専門誌である『ボクシング・ニュース』の記者として、WBSSのセカンドシーズン、準決勝を取材するためだ。

 メインイベントは地元スコットランドのスーパーライト級ボクサー、ジョシュ・テイラーの一戦だったが、私はむしろ日本の「モンスター」に興味津々だった。井上が類稀な連続KOでバンタム級王座に駆け上がったのは、もちろん熟知していた。だがブリテン島で拳を交えたことは、それまでなかったからだ。

 戦前の予想は、圧倒的に井上有利。対するエマヌエル・ロドリゲスは、苦戦するだろうと見られていた。とはいえプエルトリコの英雄は、井上に1ラウンドでTKOを喫したジェイミー・マクドネルや、70秒でノックアウトされたファン・カルロス・パヤノよりもボクサーとして優れている。関係者の間では、井上は意外に手こずるかもしれないとする意見もあった。

 はたして試合の展開は、その懸念通りになってしまう。ロドリゲスは第1ラウンドのゴングが鳴った瞬間から、緻密なボクシングを展開。カウンターを警戒しながら正確にパンチを打ち分け、格上の相手にじわじわとプレッシャーをかけていく。井上もチャンスを虎視眈々と窺っていたが、相手につきあった感は否めない。

 だが井上はまったく動じなかった。

 短いインターバルの間に戦術を修正し、至近距離からカウンターを狙うスタイルをあっさりと放棄。2ラウンドが始まると、積極的にリードパンチを散らし、試合の主導権を握っていくようになる。

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photograph by Naoki Fukuda

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