オリンピックの魔物は突然、思わぬ形で現れた。超高難度の大技から離れ技を連続して成功した後の、まさかの落下――。世界の体操を牽引し続けたキングの集大成の幕切れを、本人の肉声とともに追った。
これほどまで無情な結末を誰が想像できただろう。7月24日、体操男子予選。種目別鉄棒のみに絞って東京五輪の頂点を目指した内村航平は、まさかの落下で夢の舞台から降りることになった。13.866点で予選20位。決勝にも金メダルにも届かずに、自身4度目の五輪の幕が閉じられた。
「何やってんだバカ、という感じ。それ以上でもそれ以下でもない。自分のせいなので、何も言い訳はしません。自分としては代表が決まってから強い気持ちでやってきたつもりでしたが、本当にそのつもりだったのか」
自嘲気味に声を振り絞り、そこから気丈に顔を上げた。衝撃を受けたのはむろん内村本人だけではない。
「ショックだった。まじか? と思った」(谷川航)
「航平さんの失敗は合宿でも見たことがなかった。オリンピックは本当に何が起こるかわからないと思った」(北園丈琉)
冷静でいることに必死な団体メンバーたち。彼らに動揺を伝播させまいと、内村は取り乱すことなくひたすら一人で無念を受け入れた。
4度目の五輪は過去3度と異なり、個人枠での出場だった。赤のユニフォームを着た団体メンバー4人に続き、青のユニフォームで入場。4人とともに、団体の最初の種目である平行棒のエリアに向かった。内村自身は平行棒の演技をする予定はなかったが、2種目めに行なう鉄棒の前に、会場の雰囲気に慣れておこうという周到なプランがあった。内村は4人がアップをしている間も、鉄棒の動きのイメージを手振りを交えながらチェック。ぬかりはないはずだった。
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photograph by AFLO