参考記録ながらも今季世界最高となる319.36点で5年ぶり5度目の全日本選手権王者に輝いた羽生。コーチ陣から遠く離れながら新プログラムに挑み、圧巻の演技で世を鼓舞した、その輝きの背景に迫る。
フィニッシュのポーズを決めたあと、しばし天を仰ぎ、そして正面を見据えた。射貫くような眼差しは激しく、でもどこか穏やかでもあった。その脳裏に浮かんでいたのは、いったい何だったのか――。
2020年12月26日。
全日本選手権フリーの演技を終えた羽生結弦は、何か突き抜けたような表情を浮かべていた。
公のリンクに姿を見せるのは、同年2月の四大陸選手権以来であった。
その間の動静は、ほぼ伝えられていないに等しい。久しぶりの、シーズン初戦の舞台に、演技はむろんのこと、一挙手一投足に注目が集まった。
もはや語るまでもなく、いま世界は新型コロナウイルスの猛威にさらされ、あらゆる人に何かしらの影を投げかけた。
羽生もまた、逃れようもなかった。
8月、GPシリーズ欠場を表明。
「呼吸器系基礎疾患を有する者が新型コロナウイルスに罹患した場合、重症化し易いとの情報もあるので、可能な限り慎重に行動したいと考えています」
「このコロナ禍の中、私が動くことによって、多くの人が移動し集まる可能性があり、その結果として感染リスクが高まる可能性もあります。世界での感染者数の増加ペースが衰えておらず、その感染拡大のきっかけになってはいけないと考え、私が自粛し、感染拡大の予防に努めるとなれば、感染拡大防止の活動の一つになりえると考えております」
もうやだ、疲れたな。もうやめようって
コロナ禍で拠点のカナダ・トロントでの練習もかなわなくなった。見守ってくれるコーチはいない。オンラインでやりとりできるとはいえ、その差は大きい。
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photograph by Sunao Noto