プロへの最終関門である三段リーグの厳しさを、これ以上端的に表す事実があるだろうか。
盤を挟む相手が手強いだけではない。彼らに手こずり長居をすれば重ねた年齢と敗北が重圧と化す。
藤井が過ごした1期で相まみえ、黒星をつけた2人が、地獄のリーグで見たものとは――。
奨励会三段に昇段するような兵(つわもの)は、小さいころから別格の強さを誇っている。
そんな彼、彼女らが30人ほど集まって、基本的に1年で4人しか通過できない関門、それが「三段リーグ」だ。原則26歳までに狭き門を潜らなければならない過酷さから、同リーグを「地獄」と呼ぶ人もいる。
5年前、その「地獄」を説明するにふさわしい表現が生まれた。
藤井聡太が5敗したリーグ――。
藤井聡太とは別種の逸材、谷合廣紀
2016年4月23日、大阪・関西将棋会館で、第59回奨励会三段リーグの幕が上がった。大抵、月に2度の対局日があり、1日2局指される。半年を1期とし、計18局を戦い上位2人が四段昇段となって、棋士になれる。
29人が参加した第59回の注目は無論、14歳2カ月という史上最年少棋士の誕生だったが、この初日、一人の男が密かに爪を研いでいた。第1局で三段として初勝利を飾った藤井が、午後の第2局で盤を挟んだのが、谷合廣紀だった。
谷合は知る人ぞ知る才人だ。昨年4月に年齢制限ギリギリの26歳で棋士になった彼は現在、東京大学大学院の博士課程で、AIによる自動運転について研究している。当時は東大大学院1年生で、修士課程の研究をしながら、藤井と相対した。
淡々と話すその経歴を聞くと、藤井聡太とは別種の逸材だと分かる。小学4年で始めた公文式は、2年間のうちに高校3年までの内容を難なく修了。周囲に「微分積分」について語り合える友人はいなかった。ピアノもショパンやドビュッシーを弾きこなす。自宅にあるアップライトでは満足できず、定期的にスタジオを借りてグランドピアノのタッチと音色を楽しんでいる。
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