#1001
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<失意から生まれた希望> 昌子源「ロストフの数センチを追い求めて」

2020/04/28
W杯8強進出への夢を打ち砕かれた「ロストフの14秒」。あのとき感じた差を埋めるには、何が必要なのか。欧州で考え続け、日本に帰還した“不屈の男”が出した答えとは。(Number1001号掲載)

 めずらしく「アカン」を繰り返した。

 失点に絡んだ経験は数知れず。自ら失点の引き金になっても「中心選手が下を向いていてはいけない」と、どんなときも声を荒らげて前を見た。試合後もメディアの前に立てば、気持ちを切り替えて先を見据えた。チームメイトが失点につながるプレーをすれば「俺なんて、今まで何回、失点に絡んだか。途中出場の途中交代もあるぞ」とハッパをかけてきた。何度となく心を折られてきたが、いつも立ち上がってきた。

 そんな男が、だ。

 2018年7月。場所は成田空港近くのホテル。ロシア・ワールドカップから帰国後、最初の取材対応の場。爽やかにテレビ取材の対応を終えて、次の収録を待つ間、廊下のイスに座ったときだった。両手で顔を覆い、頭を垂れた。

「アカン、全然切り替えられへん。こんなん初めてや」

 あの“14秒”は「もう一生あるかないか」。それだけの出来事だった。

「4年後なんて考えられないし、そんな立場でもない」

 この発言の数日前、昌子源はロシア・ワールドカップ決勝トーナメント1回戦のベルギー戦に、Jリーグ組として唯一スタメン出場した。

「あの14秒の衝撃はもう……」

“ロストフの14秒”

 後半アディショナルタイムに生まれた、14秒間のプレーのことだ。

 後半48分33秒、日本のCKの場面。相手GKクルトワがキャッチすると、瞬く間にボールは日本のゴール前へ運ばれた。最後の最後に昌子がスライディングで左足を伸ばしたが、数センチ届かなかった。

 昌子の脳裏には、あのときのゴールが明確に刻まれている。

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photograph by Getty Images

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