#990
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<タフファイターたちの記憶> 八重樫東・三浦隆司「倒された。だからこそ」

2019/11/25
全勝中のローマン・ゴンサレスと対戦し、果敢に打ち合うも玉砕。だが代々木第二体育館を熱狂させた激闘王は評価を上げた。
倒す者がいれば、倒される者もいる。KOは決して勝者だけのものではない。かつて壮絶なKO負けを喫したふたりは、そこでなにを味わい、なにを見たのか。(Number990号掲載)

 拳の交錯を幾度か重ねて、八重樫東は、眼前の敵に感心していた。

「こいつ、うまいなあ」

 王者の細い目を見開かせたのは、ローマン・ゴンサレスだ。2014年9月の対戦当時、戦績は39戦全勝(33KO)。3階級制覇を期してフライ級に転向したものの、圧倒的レコードが足枷となり試合のオファーはなかなか実らなかった。その挑戦を受けて立ったのが、WBC同級王座を3度防衛中の八重樫だった。

 パンチの組み立て。距離感。防御。ボクシングのクオリティの高さを見せつけられながら、八重樫は打ち合った。ロマゴン相手の善戦に観衆も沸いた。だが――。

「周りが騒いでいるほど当たってないんですよ。柔らかいものを打っているような感じ。それが逆に怖かったりもして」

 もとより「逃げ回って判定」の選択肢は持ち合わせていなかった。

「戦前から、片道燃料で突っ込んでいくしかないだろう、と思ってました。戦争の話をしてるみたいですけど」

 勝機が見えた瞬間は「全然ない」。第9ラウンド、セコンドから「玉砕してこい」と送り出され、事実、玉砕した。

話題性も評価の材料もないKO負け。

 24戦目で初のKO負けだったが、勇敢なファイトは八重樫のプロボクサーとしての評価をむしろ高めたと言っていい。なればこそ、わずか3カ月後には再起の機会が世界戦の舞台に設けられた。

 空位のWBC世界ライトフライ級王座を、同級1位のメキシカン、ペドロ・ゲバラと争った。徐々に優位に立ったのはゲバラだ。動きが鈍り始めた八重樫に、第7ラウンド、左のボディブローを突き刺した。

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photograph by AFLO

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