あの夏、沖縄を、全国の野球ファンを感動させた左腕は、大学時代に迷い込んだ暗いトンネルの中でもがいていた。だが、甲子園の記憶の中に微かな光を見出そうとしている。3桁の背番号をつける男が見つめる再生への道筋とは――。
これだ、と思った。
今年の1月。場所はゴールドコースト。大気中のオゾン層が薄いと言われるオーストラリアの夏は、肌を軽く火にあぶられているような感覚がある。
まるでコンパスのようだった。軸足となる左足をピッチャーズプレートに置き、その周りに右足のつま先で小さな半円をゆっくりと描きながら体をよじっていく。限界までよじると、今度は右ひざを胸のあたりまで引っ張り上げる。そして、一瞬の間。打者に対し背中を向け、上げた足のつま先は、完全にセンター方向を向いていた。
「思い出したんですけど、高校時代は、このとき右ひざを見てたんですよね。右ひざが上がったのを確認してから、投げにいってました」
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photograph by Tamon Matsuzono