日本テニス界のホープとして期待された若者は
10代にして栄光と挫折を味わった。
世界トップ50を目前に発症した右ひじの痛み。
手術とリハビリを乗り越えて掴んだ自信と、
復活劇の裏に秘められた葛藤とは。
10代にして栄光と挫折を味わった。
世界トップ50を目前に発症した右ひじの痛み。
手術とリハビリを乗り越えて掴んだ自信と、
復活劇の裏に秘められた葛藤とは。
ニューヨークは、9月に入っても日本と同じように暑かった。
肌にまとわり付く熱気が、汗を止めどもなく押し出した。気温35度。13番コートの上は、照り返しで50度近くに達していたという。
座っているだけで、体中を熱気が覆った。ただ、火照るような高揚感は、決して暑さのためだけではない。どちらに転ぶか分からない死闘が、じりじりとした猛暑に拍車を掛けていた。
テニスの全米オープン2回戦を戦っていた錦織圭は、頭が朦朧としてきたのを感じていた。第4セットのタイブレーク。これを落としたらセット1-3で敗れる。すでに試合開始から4時間が経過していた。
「4セット目は、もう意識が飛びそうなぐらいの状態でタイブレークを戦っていたんです。これを取っても、まだ1セットあるのかと思うと、さすがに気持ちが切れそうになった。それでも自分をプッシュしてタイブレークを取って、5セット目はどうなってもいいからあきらめずにやろうと。この試合で得た自信はすごく大きかったし、ようやく戻ってきたんだなと感じていました」
4時間59分、大会史上3番目に長い地獄の消耗戦を制す。
相手のマリン・チリッチ(クロアチア)は第11シード。今年1月の全豪オープンでベスト4に進出し、2月には自己最高の世界ランク9位になっている。'08年3月の米インディアンウエルズの大会で初対戦し、錦織はストレートで敗れていた。
しかし、この日、地獄の消耗戦を乗り切ったのは錦織だった。気力を振り絞って第4セットを奪うと、最終セットは足が動かなくなったチリッチを大きくリードした。
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photograph by Hiromasa Mano