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「ふ、ふざけるな!」ネリの“裏切り”に温厚な山中慎介が腰を浮かし…井上尚弥と東京ドーム決戦「なぜ悪童ネリはここまで嫌われたのか?」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/03/14 11:04
5月6日に東京ドームで対戦する井上尚弥とルイス・ネリ。記者会見では山中慎介さんとネリの“再会”にも注目が集まった
超過分が2.3キロでは「そもそも落とす気がなかった」と取られても仕方がない。その後、ネリは周囲に促されて1時間45分の減量に励み、最初の計量から1キロ落とした。この段階で1キロ落とせたのだから、限界ではなかったということだろう。ではなぜ、ネリは落とさなかったのか。その理由はいまだはっきりしない。
ネリの言葉にファンは激怒「お前が言うな」
ネリはその場で王座をはく奪され、翌日の試合は、山中が勝った場合は王座獲得、ネリが勝った場合は王座が空位となるというルールで行われることになった。ネリには試合当日の昼12時の段階で58.0キロ以内という再計量を課せられたが、だからといって競技の公平性が保たれたわけではない。
一番の悲劇は山中の緊張の糸が一度、完全に切れてしまったことだろう。反対に失態を犯したネリはしたたかだった。試合が始まると元気いっぱいに山中に襲いかかり、2回1分3秒TKO勝ちを収める。そして試合後、記者会見で口にした言葉が、さらに火に油を注ぐ結果となった。
「山中はもっと出てくると思った。彼の中に恐怖心を見てとったから(自分から)打っていった」
「(チャンピオンではなくなったが)無敗記録を守れた。またチャンピオンに戻れる」
厳しい減量をクリアした山中と、減量をあきらめて翌日の試合に備えたネリとでは、試合におけるコンディションに差があったのではないか。そう問われるとネリは平然と答えた。
「当日計量があったので自分は十分な食事が摂れなかった。身体的なメリットは山中にあったと思う」
負けを受け入れ、引退を表明した山中とはあまりに対照的だった。ネリの発言はその後もファンの神経を逆なでした。たとえば、しばらくして聞こえてきた「山中との試合はイージーだった」はその一例だ。
おそらくネリに悪気はない。2回TKO勝ちという結果だけを見れば、「イージー」と感じてもおかしくはない。無敗の選手が「無敗を守れた」らホッとするのも当然だ。試合当日、いつものように食べられなかったのも事実だろう。ただ、そのすべてに「お前が言うな」というツッコミが入るのだ。こうしてネリは日本のファンから総スカンを食らったのである。