Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER

「伊東はこの街のスターなんだ」伊東純也は“シャンパンとフットボールの街”ランスで愛されていたのか?「うん、ナイスガイだったな」 

text by

豊福晋

豊福晋Shin Toyofuku

PROFILE

photograph byKiichi Matsumoto

posted2024/02/03 17:00

「伊東はこの街のスターなんだ」伊東純也は“シャンパンとフットボールの街”ランスで愛されていたのか?「うん、ナイスガイだったな」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

アジアカップ開催中に性加害疑惑が報じられた伊東純也。2月2日に日本代表チームからの離脱が発表された。昨年12月に所属チームのフランス「スタッド・ランス」にてNumberが現地取材し、伊東の評価を聞いていた

「中心部ならここだ。名物はシャンパーニュ産の牛。きっと気に入る」

 オニオンスープとクリームシチューを。

 そうオーダーすると、店員の男はいい選択だと頷いた。玉ねぎの甘みが溶け込んだこがね色のブイヨン。濃厚なベシャメルは肉の旨味をひきたてた。店員はさらりと言った。

「伊東が店に来たときも俺がサーブしたんだ。うん、ナイスガイだったな」

シャンパンはサッカーと同じ。いい年も悪い年もある

 翌朝はよく晴れていて、夜更けの雨の記憶が石畳を輝かせていた。通りの牡蠣スタンドの店主も気持ちよさそうに仕事をしている。この日はランスの年内最終戦が行われる。地元紙をひらくと、先発には当然のように伊東と中村の名前が載っていた。

 シャンパンの醸造所を訪れた。ポメリーのメゾンは街の南側、シャンパーニュ公園の近くにある。入り口はブルボン朝の貴族の館みたいに豪華だった。緑と噴水。ランスの富が集まる場所だ。カーブと呼ばれる地下深くの貯蔵庫にはモダンアートがちりばめられていた。ひんやりとした冷気が漂う薄暗い回廊を巡る。マンチェスターやムンバイ、京都のプレートの数々。数世紀前から、至高のボトルの数々がここから世界へと旅立っていったのだろう。

 葡萄畑を案内してくれたのは、背が高く体格のいい、アレクサンドルという名のメゾンの責任者だった。

「今年は水不足が心配されたけど土壌の状態もよく、むしろとてもいいものが穫れた。十分期待してくれていいよ」

 '23年は高品質の年、というわけだ。天候と病原菌に左右されるシャンパン作り。作り手たちは何世代にもわたり、その年のベストを出すために励んできた。いい年もあれば悪い年もある。どことなく浮き沈みするサッカーチームみたいだ。街の南を見渡す畑には、秋にひと仕事を終えた葡萄の木がまっすぐに並んでいた。

 それで、とアレクサンドルは微笑んだ。

「今夜のランスの試合はどうなるかな。君は、伊東を見に来たんだろう? いいアタッカーだ。私も好きな選手だ」

 彼はランスの元選手だった。アレクサンドル・バルビエ。'12年に引退した元主将だ。練習場で話をしたアントニーとはコンビを組んでいたという。

 街のいたるところで、それぞれに生きる人々が、ランスというチームとどこかで繋がっている。アレクサンドルはランスが1部に昇格するとピッチを離れ、その後はシャンパンの世界に従事している。いかにもシャンパーニュの男の生き方ではないか。

「この街にはふたつの誇りがあるんだ。シャンパンとフットボール。シャンパンは長い伝統のある地域最大の産業だ。このふたつは密接に関係してる。クラブにも昔からいくつものシャンパンのスポンサーが付いていたようにね。我々の業界もランスを応援している。小さなクラブだけど順位も悪くない。いつか、もっと上へ行くことを願っている」

「伊東のような国際レベルの選手を…」

 今夜はTVで応援するんだ。そう言って、アレクサンドルは葡萄畑を歩いていく。大きな背中が、カーブの扉へと消えていった。

【次ページ】 「伊東のような国際レベルの選手を…」

BACK 1 2 3 4 5 NEXT
伊東純也
スタッド・ランス
中村敬斗

サッカー日本代表の前後の記事

ページトップ