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6歳の井上尚弥が叫んだ「約束する。俺は強くなりたいんだ!」軽自動車を素手で押し上げ坂道を…父・真吾さんが明かす“最強”の子育て〈原点秘話〉
text by
谷口隆俊(スポーツ報知)Takatoshi Taniguchi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/07/26 17:02
父と子、幼少期から二人三脚で励んだ血の滲むような練習が井上尚弥の原点だ
「天才? 冗談じゃないぞって」
ボクシングの基本を徹底的に仕込んだ。尚弥は来る日も来る日もジャブを打った。毎日、同じ動作の繰り返し。
「今のナオを見て天才、と思う人がいるかもしれない。冗談じゃないぞって。どれだけ練習して、どれだけ苦労していると思うんだって。できないことをできるようにするために、血と涙がにじむような練習を、小1の時からやってきたんだから」
真吾さんの言葉に自然と力が込もった。
「プロレス漫画を見て思いついた」猛練習
体力向上のために練習も工夫を凝らした。家の外にロープをつるし、それを腕の力だけで上らせた。「握力、腕力、肩、腹筋、背中など全身が鍛えられた」という。高校3年時には緩やかな上り坂を使い、止めた軽自動車を体の力だけで70~80mも押し続ける練習をさせた。このトレーニングは真吾さんが「プロレス漫画を見て思いついた」ものだ。ただ、単なる思いつきだけではなくそこには将来を見据えた理由があった。プロになって「試合で、もみ合いになった時に体がブレないように」。体幹を鍛えることを目的としていた。
真吾さんは中学卒業後、塗装の仕事に就き、20歳で起業した。尚弥とWBA世界バンタム級王者・拓真兄弟には、ボクシング以外の世界も見せたくて、塗装の仕事場に何度か兄弟を連れて行った。父は息子たちが、単にボクシングが強くなることだけを望まなかった。
「ナオには3回くらい仕事場を見せた。父さんは昼間、こういうことをやっているとか、何人も使って、どういう指示をしながら、どういうことをやっているのかを見せたかった」
仕事の帰りに、尚弥と一緒に食べたラーメンの味と息子の目の輝きを今も覚えている。