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心が震えた“村上宗隆との真っ向勝負”も…ソフトバンク和田毅はなぜ、41歳で自己最速を更新できた? 本人が語る“奇跡の裏側”
posted2022/07/06 06:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
JIJI PRESS
41歳の投手が、自己最速を更新する149キロを投げた――。
その年齢で149キロをマークするだけでも十分驚きなのに、最速を塗り替えたという事実は「奇跡」と言っても大袈裟でない。少なくとも球界の常識には当てはまらない。しかし、5月29日の福岡PayPayドームでそれは確かに起きた。
広島戦に先発したソフトバンク・和田毅の初回、1番打者の野間峻祥へのピッチングだった。初球から145キロで見逃しストライク、146キロで空振りを奪い、147キロではファウルを打たせて追い込んだ。アクセルを踏み込むように徐々に加速していく。
そして勝負球の4球目は外角一杯に決まる渾身のストレートだ。見事空振り三振に仕留めたこの1球が149キロを計測したのだった。
「ぶん投げたら(球速が)出るんだ、というのは分かりました。だけど、逆にそれで四回に(左)足がつってしまったので」
以前に工藤公康前監督が「和田くんが投げるときは耳を澄ます。左足がプレートを蹴る音を聞いている」とバロメーターについて話していたが、この日も下半身のパワーをそれだけ使えていたのだろう。そうなれば簡単に打たれるはずもなく、立ち上がりから快調に「0」を並べた。味方打線も得点を重ねてリード。そんな中で左太もも裏がつった影響で3回2/3で降板したことを反省し、「しっぺ返しを食らった」と悔しがった。
圧巻だったヤクルト戦…村上宗隆と“真っ向勝負”
149キロをマークしたこの試合だけではない。今年の和田のピッチングにはとにかく凄みがある。
その後は6月12日のヤクルト戦、同19日の楽天戦(いずれもPayPayドーム)に先発。2試合とも球速は140キロ台中盤とやや落ち着いたが、その分だけ投球フォームのバランスは抜群によく映った。当然のように投球内容もまた極上そのものだった。
ヤクルト戦は白星を挙げられなかったが、6回96球を投げて1安打8奪三振の無失点。なかでも前日まで2試合連続計3発の本塁打を放ち7打数5安打7打点と大暴れした村上宗隆を相手に真っ向勝負したシーンは圧巻だった。初回の第1打席だ。投じた7球すべて直球系で、しかも全球で内角を突いて空振り三振を奪ってみせた。
パ・リーグ首位攻防戦となった楽天戦も同じく6回1安打の投球。こちらは六回表1アウトにソロ本塁打を許して1失点を喫したが、それまで打者16人はパーフェクトに抑える快投だった。