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初の開幕投手は「悔しさばかりですね……」DeNA濵口遥大が“高速スライダー”を封印していたワケ
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2021/06/04 11:03
今季、横浜の開幕投手を務めた濵口遥大投手。投球内容が大きく変化したのが4月15日のヤクルト戦(神宮)からだ
もちろんスライダーの影響ばかりではないが、確実に配球やピッチングの流れに好循環を生んだようで、この日以来、濵口は7試合連続クオリティスタート(6回以上、自責点3以下)を達成し、さらに5月の月間防御率は1.38と格段の数字を残している。とくに5月29日の楽天戦(楽天生命パーク)における田中将大との投げ合いは見ごたえ十分であり、7回に左足をつってしまい降板したが、再三のピンチを切り抜けながらの無失点ピッチングは、さすが開幕投手と万人を納得させる内容だった。
それでも「スライダーに頼りたくない」理由
しかし神妙な面持ちで濵口は言うのだ。
「正直、今でも怖さがあるんです。できるだけスライダーには頼りたくないって」
濵口独特の高速スライダーは一昨年、昨年と貴重な武器として活用していたわけだが、そもそもなぜ今季は封印をしていたのか。
「一番は他の球種の精度を高めたい、という理由です。昨年、なかなか自分で思っているような真っすぐが投げられませんでした」
昨季は10月に入り、2試合連続して2回で途中降板してしまい、開幕から唯一守ってきたローテを外され登録抹消となった。悔しさが今でも胸に残っている。とにかく納得のいくストレートが投げられなかった。
「原因はいろいろあるのですが、ひとつにスライダーの球速や曲がる角度を調整している過程で、真っすぐのリリースや指の掛かり、手首の角度に悪影響があったのではないかということです。データというか、アナリストの方からもそういった助言はありました」
言うまでもなく濵口は、ストレートありきのピッチャーだ。腕をしっかり振った強い真っすぐが真骨頂である。
「だからまずはキャンプでは真っすぐを磨くことを念頭に置きました。基本的に変化球はチェンジアップやフォーク、カーブといった真っすぐの腕の振りに影響の少ないボールを使うようにしたんです。スライダーはいいボールだし、手応えもあるんですけど、そこに頼りすぎることで、これまで積み上げてきたものが崩れてしまう可能性がありましたからね」
つまり濵口にとってスライダーは“諸刃の剣”というわけだ。木塚敦志、川村丈夫の両ピッチングコーチからは、スライダーの使用にあたり高さやコース、ラインの出し方などを全部やろうとせず、どこかひとつだけポイントを押さえて投げるように言われている。