ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
井上尚弥の圧倒的優位は揺るがない。
では今、ドネアは何を狙っているか。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byToshiya Kondo
posted2019/11/05 20:00
9月に行われた公開練習では、井上尚弥はコンディションの良さそうな姿を見せていた。果たしてどんな戦いになるのだろうか。
ドネアの希望は「長い試合」か。
個人的には、ドネアは後者の戦いを選択すると予想する。大ベテランが序盤勝負という博打に打って出るとは考えにくいし、キャリアを生かすなら試合を長引かせたほうがいい。
井上の警戒心を逆手にとり、ラウンドごとに戦い方を変え、パンチの軌道やタイミングをずらし、時にはのらり、くらりとペースをチェンジしながら、じっくりとチャンスをうかがうのだ。
たとえ判定決着になっても、ブーイングを浴びても、ポイントで差をつけられてもまったく構わない。それくらい開き直り、井上をとことん焦らし、ミスを誘い、ワンチャンスにかけるのではないだろうか。
井上が執拗に追いかける展開に?
問題はドネアがこのような作戦を実行に移せるかだ。ジリジリと前に出る井上の圧力はドネアがこれまで戦ってきたどのボクサーよりも強烈だろう。スピードで井上が優位に立っているのも間違いない。
圧倒的な攻撃力を有し、とてつもない集中力を発揮するモンスターを相手に「守り切る」のは「序盤で倒す」のと同じくらい至難の業と言える。
それでも予想通りの展開となれば、カウンターを狙いながら一発にかけるドネアを、井上がたった1ミリのスキも見逃すまいと慎重かつ執拗に追いかける、というスリリングなシーンが繰り広げられることになる。
井上が敗れる姿を予想するのは難しいが、ドネアが底力を発揮すれば、これまでにない見ごたえ抜群の試合になるだろう。